肥満、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝を改善する転写因子CREB3L3
筑波大学は12月8日、タンパク質CREB3L3が肝臓と小腸で脂質代謝を制御することから、動脈硬化をはじめとする生活習慣病の治療標的となり得ることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学医療系の島野仁教授、富山大学和漢医薬学総合研究所の中川嘉教授、神戸薬科大学の小西守周教授、京都大学薬学部の伊藤信行名誉教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科の曽根博仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」に掲載されている。
画像はリリースより
日本では、近年の食生活の欧米化に伴い、生活習慣病が急速に増加している。生活習慣病は、患者のQuality of Life(QOL)を低下させるだけでなく、医療費の増加にもつながる。そのため、生活習慣病の発症メカニズムの解明と、それに基づいた新たな治療戦略の構築が急務となっている。
研究グループは、先行研究により、肥満、糖尿病、脂質異常症、脂肪肝を改善する転写因子(タンパク質)CREB3L3を発見した。そこで、このCREB3L3について、動脈硬化に対する働きを検証し、CREB3L3が動脈硬化の発症を制御することを見出すとともに、その仕組みを明らかにした。
CREB3L3欠損マウス、著しく動脈硬化が悪化
まず、CREB3L3欠損マウスにおいて、著しい動脈硬化の悪化が見られた。その原因は、生活習慣病を改善する肝臓から分泌されるホルモンFGF21の発現低下、および、脂質分解酵素LPLの活性を不活性化するようなアポリポタンパク質の発現変化であることを見出した。
一方、CREB3L3を肝臓で過剰発現させたマウスでは逆の変化が生じ、動脈硬化が改善。さらに、CREB3L3は肝臓と小腸に発現し、どちらの組織でもCREB3L3が欠損すると動脈硬化が悪化していることがわかった。肝臓、小腸のいずれにおいても、CREB3L3が動脈硬化に影響を及ぼすことが明らかになったとしている。
CREB3L3、肝臓では多面的な働きで脂質代謝を改善し、小腸からの脂質吸収を抑制
さらに、脂質代謝において、脂質合成を促進する転写因子SREBPタンパク質の働きをCREB3L3が抑制するメカニズムを新たに同定した。SREBPは、ゴルジ体から核へ移行して転写活性化能を得るが、未成熟型CREB3L3が存在すると、細胞内の小胞体膜上で未成熟SREBPと結合し、SREBPのゴルジ体への移行、およびゴルジ体でのタンパク質切断が妨げられる。CREB3L3が欠損している場合には、SREBPは核へ移行して活性化機構が促進され、脂質合成が促進される。
以上のことから、CREB3L3は、肝臓においては多面的な働きによって脂質代謝を改善するとともに、小腸からの脂質吸収を抑制し、脂質異常症、非アルコール性脂肪肝、さらには動脈硬化を改善させる機能を有することが示された。
今回の研究成果から、肝臓および小腸のCREB3L3が脂質代謝を調節し、脂質異常から派生する生活習慣病の発症に重要な役割を演じていることが明らかになった。このことは、脂質異常を発端とするさまざまな生活習慣病について、CREB3L3を標的とした新しい予防法・治療法の可能性を示唆している、と研究グループは述べている。
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