医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 染色体を束ねるHIM-3のリン酸化が、正常な精子と卵子の形成を促すことを発見-京大

染色体を束ねるHIM-3のリン酸化が、正常な精子と卵子の形成を促すことを発見-京大

読了時間:約 2分39秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月08日 PM12:00

染色体を正しく分離するメカニズムは、明らかにされていなかった

京都大学は12月4日、モデル生物線虫を用いて、人間まで保存されたHORMAドメインタンパク質(HIM-3)のリン酸化が、正常な精子と卵子の形成を促すことを示したと発表した。これは、同大大学院生命科学研究科のピーター・カールトン准教授(兼:京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS:アイセムス)連携主任研究者)らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLoS Genetics」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

細胞が正常に機能するためには、生物ごとに特定の数の染色体が各細胞に含まれていることが重要だ。例えば人間の場合、母方から23本、父方から23本、受け継いで、合計46本の染色体を持つことで、細胞は正常に機能する。この時、染色体が多すぎても少なすぎても細胞に不具合が起こるため、減数分裂において、正しい数の染色体をもった精子と卵子を作ることが、受精卵の形成にとって重要だ。

減数分裂において染色体を均等に分離することに失敗し、精子と卵子が多すぎる、もしくは少なすぎる数の染色体を持ってしまうと、多くの場合、不妊や流産の原因となる。しかし、減数分裂期の細胞を試験管内で培養することは比較的難しく、また、減数分裂は一般的な体細胞に比べて工程が多いため、染色体を正しく分離するメカニズムについては、謎が多く残されていた。

HIM-3のリン酸化型、脱リン酸化型フォームを非対称に分布させることが、正常な染色体分離と正常な精子・卵子の形成を助ける

研究グループではこれまでに、生殖細胞が非常に豊富な線虫を用いて卵母細胞を大量に回収し、質量分析を用いて、減数分裂期に働くタンパク質と、そのリン酸化修飾を新規に同定していた。今回は、そのうち人間まで保存されている線虫HIM-3と呼ばれるタンパク質(ヒトではHORMAD1/2タンパク質と呼ばれる)のリン酸化に注目し、その機能を解析した。

HIM-3タンパク質は、減数分裂の前期に軸構造を作って、染色体を束ねる働きがあるタンパク質。同研究グループは、HIM-3がリン酸化を受けることを前述の質量分析で同定し、このリン酸化されたフォームのHIM-3タンパク質の居場所を細胞内で可視化した。その結果、減数第一分裂で染色体が分離されるべき部分に、このリン酸化型HIM-3タンパク質が集まることがわかった。反対に、減数第二分裂で分離されるべき染色体の部分には、脱リン酸化型HIM-3(リン酸化されていないHIM-3タンパク質)が集まることも明らかになった。

時系列を追った解析により、HIM-3タンパク質は、まず減数分裂の初めにリン酸化を受け、次に染色体の分離面を決定すべき時に、減数第一分裂における分離面においてさらなるリン酸化が起こり、一方の減数第二分裂における分離面では、脱リン酸化が起こることで、リン酸化型および脱リン酸化型フォームを持ったものが、染色体軸上で非対称に分布することがわかったという。

そこで、CRISPR-Cas9ゲノム編集法を用いて、このリン酸、脱リン酸化ができないHIM-3をつくるトランスジェニック線虫を作製したところ、この線虫は、減数分裂において染色体を分離する面を決めるのが遅くなり、野生株に比べて、不妊度が高いことが判明した。これより、HIM-3のリン酸化型、脱リン酸化型フォームを非対称に分布させることが、正常な染色体分離、そして正常な精子と卵子の形成を手助けしていることが明らかになった。

ヒトのHormadタンパク質もリン酸化と脱リン酸化によって、機能が制御されている可能性

HIM-3を含むHormadファミリータンパク質は、哺乳類まで保存されており、マウスにおいてもHormad遺伝子に変異を持った動物は、不妊になることが知られている。今回の研究は、Hormadファミリータンパク質と、相互作用するタンパク質間の結合が、リン酸化の有無により調節されており、それが正常な染色体の分離、そして正常な精子と卵子の形成に重要であることを示した。

「マウスのHormadタンパク質においても、線虫HIM-3と同様の部分においてリン酸化を受けることが知られているため、ヒトのHormadタンパク質も、リン酸化と脱リン酸化によって、その機能が制御されている可能性が示唆された」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 白血病関連遺伝子ASXL1変異の血液による、動脈硬化誘導メカニズム解明-東大
  • 抗がん剤ドキソルビシン心毒性、ダントロレン予防投与で改善の可能性-山口大
  • 自律神経の仕組み解明、交感神経はサブタイプごとに臓器を個別に制御-理研ほか
  • 医学部教育、情報科学技術に関する13の学修目標を具体化-名大
  • 従来よりも増殖が良好なCAR-T細胞開発、治療効果増強に期待-名大ほか