膵臓がんで発現が増えている(P)RR、正常細胞に発現させると?
香川大学は11月27日、正常な膵臓の細胞(培養ヒト膵管上皮細胞)に(プロ)レニン受容体((P)RR)が発現すると、ゲノム不安定性、すなわち遺伝子と染色体の異常が生じて、がんの性質を持つ細胞になることが世界で初めて明らかとなったと発表した。この研究は、同大医学部薬理学の柴山弓季研究員と西山成教授らの研究グループが、共同責任著者である東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻の藤本明洋教授の協力のもと、藤田医科大学、大阪大学、東北大学、宮城県立がんセンター、姫路市、大阪市立総合医療センター、岐阜大学、神戸大学、大阪医科大学、四日市看護医療大学などの数多くの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
膵臓がんは、最も治療が難しいがんとして知られている。膵臓がんでは、ゲノムが不安定のために多くの遺伝子や染色体の異常が生じるとされており、これが治療を困難にしている原因と考えられている。一方、(P)RRは、もともと高血圧などに関与するレニン・アンジオテンシン系の一部として機能することがわかっていたが、同グループの先行研究において、膵臓がんでは(P)RRの発現が増えており、がんの進展に関わっていることを見つけていた。さらに、この先行研究において、がんになる一歩手前の前癌病変の段階で、(P)RRの発現が増えてきていることが偶然発見された。そこで研究グループは、正常の膵臓の細胞に(P)RRの発現が増えてくると、がんで見られるゲノムの不安定性、すなわち遺伝子や染色体に異常が起こるかもしれないと考え、今回の研究を立案した。
全染色体レベルでゲノムの不安定性が生じ、がん細胞化
膵管上皮細胞ががん化すると膵臓がんとなる。そこで、培養ヒト正常膵管上皮細胞(HPDE-1/E6E7)に対し、永続的に(P)RRが過剰に発現するように遺伝子誘導したところ、がんで見られるような大きさがバラバラでいびつな形の核や細胞に変化してくることがわかった。
そこで、次世代シーケンサーを使って、遺伝子と染色体を比較。その結果、(P)RRがたくさん発現すると、全染色体レベルでゲノムの不安定性が生じることがわかった。つまり、がんのように、遺伝子や染色体が正常に機能しなくなる可能性があるということがわかったという。
正常の培養ヒト膵管上皮細胞に(P)RRを発現させると、細胞の増殖スピードが上昇した。また、これを免疫不全マウスの腎臓に移植すると、がんの特徴である異型細胞を含む腫瘍を形成した。これらの結果から、(P)RRが膵臓がんを形成する主要な因子の一つであると考えられた。
今回の研究により、正常な膵臓において(P)RRの発現が増えると、ゲノム不安定性を生じて、それががんの発症につながるのではないかと考えられた。研究グループは、今回の成果について、「膵臓がんにおける治療法や診断薬の開発において、(P)RRが有効な分子ターゲットになることを大きく支持するものであり、今後の新しい診断・治療法の開発が期待される」と、述べている。
▼関連リンク
・香川大学 プレスリリース