指定難病「封入体筋炎」、ミトコンドリア機能異常が一因となる難治筋疾患
東北大学は12月4日、同大で開発中の新規ミトコンドリア病治療薬候補Mitochonic acid 5 (MA-5)が封入体筋炎に対して有効であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科および大学院医工学研究科病態液性制御学分野の阿部高明教授、小児病態学分野の及川善嗣医員らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、高齢化に伴う筋力の低下や筋萎縮が社会問題となっているが、いまだ確立した診断法や治療法はない。筋力の低下や筋萎縮の原因のひとつとして、ミトコンドリアの機能異常が報告されている。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー産生工場というべき細胞小器官であり、生命活動維持に必要なエネルギー(ATP)の95%を産生している。ミトコンドリアの機能異常は、ミトコンドリア病だけではなく、神経筋疾患や心臓病、腎臓病、糖尿病等の疾患の原因となることが明らかになっている。
国の指定難病である封入体筋炎は、ミトコンドリアの機能異常が一因となる難治筋疾患。現時点では、封入体筋炎の診断は困難で、発見まで長期間を要し、また、有効な治療法が存在しないため、新しい診断方法やその治療法の発見が望まれている。
MA-5、封入体筋炎患者由来の筋細胞において細胞保護効果
今回、研究グループは、新規ミトコンドリア病治療薬候補Mitochonic acid 5(MA-5)が封入体筋炎患者由来の細胞の病態改善に有効であることを報告した。MA-5は阿部教授のグループが2015年にインドール化合物を元に開発した新薬。MA-5にはATP産生の効率を高める効果があり、ミトコンドリア病患者の細胞の生存率を上昇させることが報告されている。
封入体筋炎患者の筋肉由来の細胞および皮膚由来の細胞を用いてミトコンドリア機能を調べたところ、健常人の細胞に比べてミトコンドリア機能が低下していることが明らかになった。また患者由来の細胞では、Opa1とDrp1という、ミトコンドリアの質の維持や動きの調節に関与する遺伝子の発現が低下していた。そこで筋肉細胞にMA-5を投与したところ、低下していた細胞内のATPが上昇し、またミトコンドリアの活動性(ダイナミクス)が改善して細胞保護作用があることが明らかになった。
さらに、封入体筋炎の患者血中では、ミトコンドリア病患者のバイオマーカーとして報告されているタンパク質GDF15が上昇していることも判明。そこで、封入体筋炎患者由来の細胞に対するMA-5の効果を検討したところ、MA-5は細胞の活性酸素(ROS)の産生を低下させ、細胞保護効果を示すことが明らかになった。
新規ミトコンドリア病治療薬候補MA-5の封入体筋炎での有効性が明らかにされたことで、今後、封入体筋炎のさらなる病態の解明や治療法の開発がさらに進むことが期待される。MA-5は国内外の特許申請を完了している日本発かつ世界初の化合物だ。研究グループは、「非臨床試験は終了しており、ヒトへの臨床治験に向けて準備を行っている」と、述べている。
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・東北大学 研究成果