医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 妊婦約2万人血中鉛濃度と出生児体格との関連を調査-京大ほか

妊婦約2万人血中鉛濃度と出生児体格との関連を調査-京大ほか

読了時間:約 3分9秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年12月03日 PM12:45

化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにする「エコチル調査」

京都大学は12月2日、子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、エコチル調査)の約2万人の妊婦の血中鉛濃度と、新生児の体格との関連を解析した結果を発表した。この研究は、同大大学院医学研究科エコチル調査京都ユニットセンターの後藤禎人特定助教、萬代真理恵研究員、佐藤俊哉教授、中山健夫センター長、国立環境研究所エコチル調査コアセンターの山崎新コアセンター長、中山祥嗣次長らの研究グループによるもの。研究成果は、疫学分野の学術誌「International Journal of Epidemiology」に掲載されている。

エコチル調査は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国10万組の親子を対象に開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。母体血や臍帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、参加する子どもが13歳になるまで追跡調査し、子どもの健康に影響を与える環境要因を明らかにすることとしている。

国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施している。調査期間は5年間のデータ解析期間を含み、令和14(2032)年度までを予定している。


画像はリリースより

妊婦の妊婦健診時の血液で、母体血中鉛濃度を測定

小さく生まれた新生児は、生後の疾患や成長後に慢性疾患になりやすいことが指摘されている。エコチル調査では子どもの健康の一つの要素として、胎児の成長に関わる要因を調べる研究を進めている。

鉛は、ばく露されることで人体に悪影響を及ぼすことが知られている。近年、ガソリンや塗料中の鉛使用が規制され、日常生活環境での高濃度のばく露は極めて少なくなった。一方で、日常的な低濃度ばく露の影響が新たに報告されるようになってきた。なお、これらの鉛の慢性低濃度ばく露は、母体からばく露される胎児期から始まっていると想定されている。

これまでの海外での研究では、自然流産・早産の増加、先天性疾患、出生時体格への影響について報告があるが、確定的なことは現在まで明らかになっていない。さらに、日本における出生児体格への影響を調べた全国的大規模調査はこれまでになかった。

本研究では、調査に参加した妊婦の妊婦健診(妊娠中期と後期)時の血液を用いて、母体血中鉛濃度を測定。出生児の体格(体重、身長、頭囲)と妊娠期間、、SGA(在胎週数に見合う標準的出生体重に比して小さい)、低出生体重児の有無は、診療記録から調査。また、平成28(2016)年4月までの出産時全固定データ(新生児の情報)および平成29(2017)年4月までの金属類第一次固定データ(2万人に関する元素の血中濃度)を使用し、そのうち1万6,243人について解析した。

胎児期における鉛ばく露、影響がある一方で臨床的には極めて限定的

参加妊婦のうち、解析対象となった妊婦の血液中鉛濃度は、中央値が0.63(範囲0.16-7.4)µg/dLであり、約91%(1万4,755人)が1.0µg/dL以下、米国疾病予防管理センター(CDC)の参照水準(5.0µg/dL以上)を超える妊婦は0.03%(4人)だった。母体血液中の鉛濃度が0.1µg/dL上昇するごとに、5.4g(95%信頼区間:3.4-7.5g)体重が減少していた。

また、母体血液中の鉛濃度が0.1µg/dL上昇するごとに、SGAと低出生体重で生まれる児が1.03倍(95%CI:1.02-1.04)多かったことがわかった。一方で、妊娠期間の短縮や早産は変わらなかった。

以上のことから、妊娠中の血中鉛濃度が1.0µg/dL以下と低濃度であっても、出生児体格に影響があることがわかった。しかし、その影響は個人個人に対しては小さく、臨床的には、胎児期における鉛ばく露の影響は、極めて限定的であることがわかったとしている。

妊婦健診などでの全員スクリーニング検査は不要か

今回の研究における限界として、研究グループは「大多数の妊婦の血中鉛濃度が低く、高濃度のばく露の影響には言及できない点、血中鉛濃度の上昇や低下に関わる要因の詳細調査が未実施である点」をあげている。今回の出生時体格へのわずかな影響が、今後、児の成長発達に影響するのか、社会全体でどのような影響があるのか、さらに研究を進めるとしている。

また、妊娠中の鉛ばく露の胎児への影響は、知能などの中枢神経機能への悪影響が最も深刻と考えられているが、妊婦の鉛ばく露濃度には安全と判断できる閾値は設定されていない。今回、妊娠中の低ばく露であっても、出生時体格との関連があったため、ばく露環境での影響は注意が必要だと考えられる。しかし、国内における通常の日常環境では、個人的な影響の程度は極めて限定的であり、妊婦健診などでの全員スクリーニング検査は不要と考えられる、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大