抗HIV薬の進化によって、HIV感染症はコントロール可能な慢性疾患になった。長期間の療養が実現したことで、高齢化に伴う嚥下障害や併存疾患との薬物治療に注意を払う必要性が高まっている。
都立駒込病院前にあるスエヤス調剤薬局文京店の島田淳史氏は「患者の高齢化による嚥下障害に注意している」と語った。薬剤耐性ウイルスの出現を防ぐため抗HIV薬の服薬率を高く保つ必要があるが、抗HIV薬の錠剤は大きく、嚥下障害を伴う患者は服薬に難渋することが少なくない。
島田氏は「年齢を重ねることで、今まで服用できていた薬を飲み込めなくなったり、吐き出したりする症例を経験した」と述べ、患者の状況を把握し必要な対応を取るよう呼びかけた。
国立病院機構大阪医療センターの近くに位置する法円坂薬局の迫田直樹氏は、「高齢化によって併存疾患が増加し、併用薬が増えるため相互作用を確認する必要がある」と指摘した。HIV感染患者は、他疾患の治療でかかっている医師にはHIV感染を告知していない場合がある。
その結果、睡眠導入剤のトリアゾラムや降圧剤のアゼルニジピン、プロトンポンプ阻害剤など抗HIV薬の併用禁忌となり得る薬が処方されている可能性があるとし、薬局薬剤師が情報を一元的に管理して患者の不利益を防ぐよう求めた。
横浜市立市民病院前に位置する薬樹薬局三ツ沢の田橋美佳氏は、「医師には飲めていると話す患者でも、飲み忘れがある患者は多い。その要因を患者と一緒に洗い出してほしい」と言及。広島大学病院の近隣にある緑風会薬局の小川和彦氏も「長期間の服用で飲み疲れが生じる患者もいる。何が問題になっているのかを聞き取り、対応する必要がある」と強調した。
患者の高齢化によって、今後進むと見られるのがHIV感染患者の在宅医療である。小川氏は「服薬率を100%に近づける支援が重要になる。往診医がHIV感染症に精通していない場合、薬剤師が果たす役割は大きい」と語った。
田橋氏は、「日頃から地域のケアマネージャーやヘルパー、訪問看護師との連携を密にし、服薬に難渋する症例があれば、薬局薬剤師に連絡が来る関係を築くことが重要」と指摘。「他職種から連絡があれば、単発でもいいので患者宅を訪問することが大事。そこから連携が始まる」と話した。