ポドサイト障害で壊れた「ふるい」を回復させる有効な薬剤や治療法は存在しない
岡山大学は11月26日、腎臓においてタンパク尿を防ぐ血液ろ過細胞に重要なタンパク質「ダイナミン1」を発見したと発表した。これは、同大大学院医歯薬学総合研究科(医)生化学分野の山田浩司准教授、竹居孝二教授らのグループが、同大大学院医歯薬学総合研究科・腎・免疫・内分泌代謝内科学、同大病院・新医療研究開発センター、千葉大学大学院医学研究院腎臓内科学、徳島大学大学院医歯薬学研究部、愛媛大学プロテオサイエンスセンター、米Yale大学医学部腎臓内科らが共同で行ったもの。研究成果は、「The FASEB Journal」に掲載され、表紙に選出されている。
画像はリリースより
日本では、約1,330万人の患者が慢性腎臓病に罹患しているといわれている。慢性腎臓病の悪化により人工透析に移行する場合も多くみられ、病態の発症・進行を抑えることが極めて重要だ。
血液中には、体が必要とする多くのタンパク質があるが、腎臓糸球体にあるポドサイトという細胞が血液を「ふるい」にかけて尿への排出を防止している。ポドサイトは、多数の突起を規則的に噛み合わせ、緻密な血液のふるいを作っている。高血圧、糖尿病などによりポドサイトが傷つくと、このふるいが壊れてタンパク尿が発生する。多大なタンパク尿は腎臓の機能低下につながることが知られている。しかし、ポドサイトの障害で壊れたふるいを回復させる有効な薬剤や治療法は存在しない。
ダイナミン1が微小管の束を作り、ふるいの機能を保つ「ポドサイトの突起」の形成をサポート
共同研究者である米Yale大学のIshibe博士らがダイナミン1と2をノックアウトしたポドサイトを持つマウスを作製。このマウスは高度のタンパク尿を発生する。そこで、山田教授らの研究グループは、血液のふるい機能にダイナミン1がどのように関わるのかを調べた。まず、ラット腎臓でダイナミン1の分布を免疫化学的に調べ、ポドサイトに存在することを確認。続いて、マウスポドサイトを用いてダイナミン1の細胞内分布を調べた。すると、ダイナミン1は、ポドサイトの中心部から、真っすぐ放射状に分布し、その先の細胞の突起まで存在していることがわかった。さらに、ポドサイトの骨組みタンパク(微小管)の束とダイナミン1が同じ分布を示したという。
次に、ダイナミン1の機能を調べるため、RNAiという方法で、ダイナミン1タンパク質をポドサイトから無くした。その結果、同細胞では、微小管の束が解けて突起がうまく作れなくなった。同様に、ダイナミン1と2のノックアウトマウスから単離したポドサイトも突起を作れなくなった。これらの結果は、ダイナミン1が微小管の束を作ることで、ポドサイトの突起の形成をサポートしていることを示している。この突起が作る枠組みが、ふるいの機能を保つために大切だと考えられるという。
ダイナミン1をターゲットとした新規治療法への応用に期待
腎臓糸球体での血液のふるいをつくる仕組みの解明は、タンパク尿を抑止するための創薬や、新規治療法の開発につながる。今回の研究から得られたダイナミン1の知見をもとに、ポドサイト障害による、ふるい能力の低下を最小限にとどめ、タンパク尿の進行を抑制する展開が期待される。
「私たちの発見したダイナミン1をターゲットに、腎臓での血液ろ過機能の低下を防ぎ、タンパク尿の進行や慢性腎臓病の進行を抑止できる可能性がある。また、腎臓病の発症機序やその新規治療法への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース