口腔がん切除後に再発を起こす症例、がん化メカニズムは?
岡山大学は11月26日、通常は口腔がんの手助けをするはずの腫瘍間質が、口腔がんの悪性度や浸潤などの性格を制御していることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医歯薬学総合研究科(歯)の長塚仁教授、高畠清文助教らの研究グループによるもの。研究成果は、スイスの学術誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載されている。
口腔がんの中には、病変が口腔粘膜の表層上皮に限局し、深部に浸潤していないにもかかわらず、病変部を切除した後の再生上皮組織にがんの再発を繰り返すものがある。また、口腔がんの手術後に皮膚皮弁を用いて再建する場合があるが、がんが存在しないはずの皮膚皮弁からがんが発生する症例がある。
このように口腔がんを取り切ったにもかかわらず再発を起こす症例が散見され、従来のがん化の概念では説明できない現象が臨床の場で起こっている。そのため、このがん化メカニズムの解明が強く望まれている。
画像はリリースより
同一口腔がん細胞でも腫瘍間質が異なると浸潤性などに違い、マウスで確認
今回の研究では、浸潤度の異なる2種類の腫瘍間質を口腔がん手術材料から採取し、ヒト由来口腔扁平上皮がん細胞株とともにマウスの頭蓋部に移植。移植後1か月、腫瘍が成長したところで摘出して顕微鏡で観察した。
すると、浸潤性の高い口腔がんから採取した腫瘍間質を移植したマウスでは、口腔がんの浸潤が著しく、また分化度が低くなった。一方で、浸潤性に乏しい口腔がんから採取した腫瘍間質を移植したマウスでは、口腔がんの浸潤性は低く、分化度も高くなった。
このように同一の口腔がん細胞を移植したにもかかわらず、移植した腫瘍間質が異なると、口腔がん細胞の浸潤性や分化度などの性格が異なることがわかった。このことから、研究グループは「がん細胞は一度手懐けたはずの腫瘍間質により、逆に影響を受けて生物学的性格を変化させる可能性が示唆された」としている。
腫瘍切除時の再発率軽減などに期待
今回の研究結果は、従来から考えられている口腔がんの発がん・進展メカニズムとは異なる新たな腫瘍学の概念を提示する結果だという。
口腔がん治療では手術による切除が一般的だが、腫瘍切除時の外科的切除範囲設定の新たな基準をもたらし、再発率を軽減させることが期待される、と研究グループは述べている。
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・岡山大学 プレスリリース