高齢者の間葉系幹細胞は若年者と同等の分化能か
東京都健康長寿医療センターは11月26日、包括的1細胞遺伝子発現解析により、脂肪組織から培養を経ない幹細胞を同定し、脂肪幹細胞の分化を制御する遺伝子発現が老齢で揺らいでいることをはじめて明らかにしたと発表した。これは同センター石神昭人研究部長、土志田裕太、佐野遙香連携大学院生と、和歌山県立医科大学の橋本真一教授、岩淵禎弘助教、東京都立大学の相垣敏郎教授、東京医科歯科大学の吉田雅幸教授らと共同研究によるもの。研究成果は、「PLOS ONE」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
再生医療は、組織や臓器の欠損や機能不全に対して、幹細胞を用いて機能を回復する医療だ。幹細胞には、iPS細胞のような多能性幹細胞と間葉系幹細胞のような体性幹細胞がある。間葉系幹細胞は、骨髄や脂肪、皮膚など全身のさまざまな場所に存在しており、自分自身から採取した間葉系幹細胞を再生医療に使用することが可能だ。超高齢社会において再生医療を受ける患者では今後、高齢者の増加が予想される。しかし、高齢者から採取した間葉系幹細胞が、若年者の間葉系幹細胞と分化能が同等であるかはわかっていなかった。
そこで今回研究グループは、老齢と若齢のマウス脂肪組織から培養を経ない幹細胞を同定して、脂肪幹細胞の遺伝子発現が老若マウスで同等であるかを明らかにすることを目的に、多くの細胞集団から細胞1個ずつを区別して解析できる、最新の1細胞遺伝子発現解析を行った。
老齢マウスで脂肪幹細胞の分化を制御する遺伝子発現の厳密性が揺らいでいる
その結果、包括的1細胞遺伝子発現解析により、老若マウスの脂肪組織から成熟脂肪細胞を除いた間質血管画分を分離、精製して、培養を経ることなく、間質血管画分に存在する脂肪幹細胞を同定した。そして、細胞分化の抑制に関与する3種類の遺伝子(Adamts7、Snai2、Tgfbr1)が脂肪幹細胞で高発現していることを新たに見出した。さらに、これらの遺伝子と脂肪前駆細胞で高発現する遺伝子を老若マウスの間で比較したところ、脂肪幹細胞の分化を制御する遺伝子発現の厳密性が、老齢で揺らいでいることがわかったという。
今回の研究から、培養を経ることなく間質血管画分に存在する脂肪幹細胞が同定された。また、再生医療に使用される脂肪幹細胞は、老齢で分化を制御する遺伝子発現が揺らぐことを明らかにした。「この研究成果は、脂肪幹細胞を使用する高齢者の再生医療に大きく貢献するものと期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター プレスリリース