がん抑制遺伝子Fbxw7と乳がん発症の関連を研究
九州大学は11月25日、がん抑制遺伝子Fbxw7の解析から、Fbxw7の欠損が乳がん発生の原因となり、さらには治療抵抗性の要因となる腫瘍内におけるがん細胞の多様性の原因となっていることを明らかにしたと発表した。これは、生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、同大学病院の小野山一郎助教らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学雑誌「Cancer Research」に掲載されている。
画像はリリースより
がん抑制遺伝子であるFbxw7は、細胞内でがん遺伝子タンパク質であるc-Myc、サイクリンE、Notch1などの分解を担っており、このシステムの破綻はがん遺伝子タンパク質の異常蓄積から発がんにつながることが知られている。実際、Fbxw7を胸腺、骨髄などで欠損させたマウスはそれぞれT細胞リンパ腫や白血病を発症する。また、さまざまなヒトの腫瘍でもFbxw7の変異が報告されており、乳がんもその一つである。しかし、Fbxw7が欠損することで、どのようながん遺伝子タンパク質が異常蓄積して発がんに至るのかは臓器によって異なっており、腫瘍が発生しない臓器もある。
そこで研究グループは、乳腺細胞特異的にFbxw7を欠損したマウスを作製し、実際に乳がんを発症するのか、また発症するのであれば、どのようなメカニズムで発症するのかを明らかにする目的で研究を開始した。
乳腺細胞特異的Fbxw7欠損マウスで腫瘍内多様性
乳腺細胞特異的にFbxw7を欠損したマウスの解析を行うと、Fbxw7がタンパク質分解の標的とする種々のタンパク質の中で、Notch1とp63が異常蓄積していることがわかった。また、Fbxw7を欠損した乳腺組織は乳がんを自然発症し、発生した乳がんには従来トリプルネガティブと呼ばれていたBasal-like型と呼ばれるものを多く認めた。
次にFbxw7を欠損して発生する乳がんをより詳しく解析するため、Fbxw7欠損マウスの乳がん組織からがん細胞を単離し、細胞株を樹立。その結果、上皮系細胞様に見えるものから間葉系細胞に見えるものまで、いろいろなタイプの細胞株が樹立された。とても興味深いことに、いずれのがん細胞株もヌードマウスに腫瘍を形成することができ、上皮系がん細胞株からは腺がん様の組織像を呈する腫瘍、間葉系がん細胞株からは間葉系腫瘍の組織像を呈する腫瘍が得られた。
この結果は、Fbxw7という一つの遺伝子の欠損から発生した乳がん組織の中に、異なるタイプの腫瘍細胞が存在すること(腫瘍内多様性)を示している。腫瘍内における多様性は近年、がん治療において治療抵抗性の原因の一つとして注目されており、腫瘍内にさまざまな性質のがん細胞が存在することが、すべてのがん細胞を死滅させることを難しくしている要因の一つと考えられている。
腫瘍内多様性の原因、Fbxw7がタンパク質分解の標的とする転写因子の下流シグナルのバランスの違いか
そこで、研究グループは、Fbxw7という一つの遺伝子欠損から発生する腫瘍内に、どのように異なるタイプの腫瘍細胞が発生するのかを明らかにするため、マウスから樹立した上皮系がん細胞株と間葉系がん細胞株に発現する遺伝子をRNAシークエンスで網羅的に解析した。その結果、Fbxw7がタンパク質分解の標的とするタンパク質の中で、上皮系がん細胞株ではNotch1とp63の下流遺伝子群、間葉系がん細胞株ではStat3とJunの下流遺伝子群が活性化していたことがわかった。また、どちらのタイプのがん細胞株においても、Nfkb1の下流遺伝子群が活性化しており、NF-kBシグナルの活性化が腫瘍内多様性の形成に重要な役割を担っている可能性が示唆された。
トリプルネガティブの乳がんの分類がなされるようになってから、かなりの時間が経過している。しかし、このタイプの乳がんに対する治療が効果的でないことも多く、さらなる有効な治療法の開発が必要とされている。今回の研究では、Fbxw7が欠損することで、乳がんにおいて治療抵抗性の要因となるがん細胞の腫瘍内多様性が引き起こされることが明らかになった。「今後、Fbxw7欠損により異常蓄積するタンパク質の解析を進めることで、腫瘍内多様性を引き起こす決定的因子を明らかにし、それを標的とした乳がんに対する新しい治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・九州大学 プレスリリース