5人に1人が保有のcnm陽性ミュータンス菌、脳内の経時的な微小脳出血との関連は?
国立循環器病研究センターは11月24日、虫歯の原因菌(いわゆるミュータンス菌)のうち、脳の血管内のコラーゲンと結合することができるcnm遺伝子保有株(cnm陽性ミュータンス菌)が、微小脳出血の出現に関与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同センター脳神経内科の細木聡医師(慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程4年)、齊藤聡医師、猪原匡史部長らを中心とする研究グループが、大阪大学大学院歯学研究科口腔分子感染制御学講座の野村良太准教授、仲野和彦教授、慶應義塾大学医学部内科学(神経)の中原仁教授、鈴木則宏名誉教授らの国際共同研究グループとともに行ったもの。研究成果は、「Stroke」の2020年12月号に掲載され、同誌の表紙を飾った。
画像はリリースより
脳卒中は、寝たきりになる筆頭原因で、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の血管が破れる「脳(内)出血」および「くも膜下出血」に分類される。脳出血は全脳卒中の20%程度を占め、比較的発症する年齢が若く、症状が重篤となりやすいことが知られている。脳出血は高血圧や糖尿病などの生活習慣病と関わりが深いが、それだけでは説明できない部分が多く、未知の要因があると考えられてきた。猪原部長らの研究グループは先行研究で、脳出血患者はcnm陽性ミュータンス菌を持つ割合が多く、脳のMRI画像で観察できる微小な脳出血の跡が多いことを明らかにしていた。いわばこの「悪玉虫歯菌」を、日本では5人に1人程度が口の中に保有しているが、実際にこの菌の保有者の脳内で微小な脳出血が増えていくのか、経時的な変化は明らかになっていなかった。
脳卒中入院患者の歯垢を解析して関連性が判明
研究グループは、脳卒中で同センターに入院した患者から同意を得て歯垢を採取し、その中に含まれるミュータンス菌を培養して、cnm陽性ミュータンス菌と経時的な微小脳出血の出現率の関係を調査した。その結果、cnm陽性ミュータンス菌が歯垢中から検出された患者では、そうでない患者と比較して、微小脳出血の出現率が4.7倍高いことが明らかになりった。この「悪玉虫歯菌」は、生活習慣や年齢の影響によってほころびが出た脳血管のコラーゲンに接着し、炎症を起こし、出血を止める血小板の働きを抑制することで脳出血を引き起こすのではないかと考えられている。
今回、cnm陽性ミュータンス菌と脳出血との関係を明らかにできたことは、脳卒中の機序の解明に寄与するものと考えられるという。現在、研究グループは、cnm陽性ミュータンス菌によって脳出血が引き起こされるメカニズムを探索する基礎研究や、国内15施設と協力して進めている多施設前向き研究、アフリカ、東南アジアを含む世界中の他人種・地域における本菌の役割を検討する国際共同観察研究を実施している。研究グループは、「日本では欧米諸国と比べてまだまだ脳出血が多く、口腔内の悪玉虫歯菌を減らすために、口の中を清潔にすることが有効であると考えられる」と、述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース