腎臓スリット膜の構造維持機構を解明
千葉大学は11月19日、腎臓が持つ血液中のタンパク質の最終濾過バリア(スリット膜)の構造維持機構を解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院腎臓内科学の淺沼克彦教授、山田博之協力研究員・京都大学腎臓内科学大学院生(研究当時/現 京都大学初期医療救急医学分野特定病院助教)と京都大学大学院医学研究科TMKプロジェクト・腎臓内科学の柳田素子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Kidney International」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
透析予備軍とされる慢性腎臓病患者は、日本人の成人人口の約13%(1330万人)とされている。タンパク尿は、慢性腎臓病患者において腎不全への進行を予想させる指標。タンパク尿発症のメカニズムを解明することは、慢性腎臓病治療薬を開発する上で重要となる。
腎臓は血液を濾過して尿をつくり、体内で作られた老廃物を捨てる役割を持つ臓器だが、その濾過は、腎臓にある糸球体で行われている。糸球体で血中タンパク質の最終濾過バリアとして働いているのは糸球体足細胞(ポドサイト)の作るスリット膜。つまり、スリット膜が壊れるとタンパク尿が出現し、慢性腎臓病が進行していくことになるが、スリット膜の構造がどのように維持されているかはよくわかっていなかった。
研究グループは以前の研究で、スリット膜を細胞の中から支える位置にMAGI-2というタンパク質があること、MAGI-2を作れないようにしたマウスはスリット膜が不完全で大量のタンパク尿が出現し、慢性腎臓病から腎不全になって死んでしまうことを報告していた。今回、研究グループは、MAGI-2がスリット膜の構造維持に重要な働きをしているのではないかと考えて研究を実施した。
ポドサイトにMAGI−2がないとスリット膜が壊れる
実験動物に薬剤でタンパク尿を誘発すると、ポドサイトにおけるMAGI-2が減少。また、ヒトの腎生検検体の検討で、腎不全になりやすい腎臓の病気(ネフローゼ症候群、IgA腎症)になると、ポドサイトでMAGI-2が減少していることがわかった。
さらに、MAGI-2が減少しているポドサイトでは、スリット膜を形成するタンパク質(ネフリンやNeph1)が減少していたことから、タンパク尿の原因は、MAGI-2が減少しているためと考えられた。
ポドサイトだけMAGI-2を作ることができないようにしたマウスでは大量にタンパク尿が出るが、このマウスのスリット膜は壊れていた。その原因として、ポドサイトにMAGI-2がないために、スリット膜タンパク質(ネフリンやNeph1)の配置が変化してしまっていることを遺伝子改変マウスと培養細胞の実験で見つけたという。
MAGI-2、スリット膜タンパク質と結合して配置と発現量を調節
さらに、上記の結果をふまえて、細胞実験により、MAGI-2は、スリット膜タンパク質と結合し、スリット膜を本来の配置に並べる働きと、スリット膜タンパク質の量を保つのに役立っていることを証明した。
これらの結果により、MAGI-2がスリット膜を形成するタンパク質の発現量を調節し、その配置を決定しているという腎臓のタンパク質濾過機能において重要な役割を果たしていることがわかった。
今後、MAGI-2のポドサイトにおける役割をさらに解明し、MAGI-2を制御することで、慢性腎臓病治療薬を作れないか研究を進めていく、と研究グループは述べている。
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