エスケープ変異を考慮した、高い中和活性を持つタンパク質製剤の開発
大阪大学は11月18日、新型コロナウイルスの受容体であるACE2タンパク質のウイルス結合力を100倍以上高めることに成功し、今後この高親和性改変ACE2タンパク質を用いたウイルス中和タンパク質製剤の創薬を行うと発表した。これは、京都府立医科大学大循環器内科学の星野温助教、大阪大学蛋白質研究所の高木淳一教授、微生物病研究所岡本徹の教授らの研究グループによるもの。研究成果は、プレプリントリポジトリ「bioRxiv」に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)の感染者は全世界で5000万人を超え、130万人以上が死亡している。新型コロナウイルスは粒子表面にあるスパイクタンパク質がヒトの細胞表面にあるACE2タンパク質に結合することで感染が起こる。そのため、治療方法の一つとしてスパイクタンパク質をブロックして中和する方法があり、現在この中和製剤として抗体製剤の開発が盛んに行われている。
しかし、抗体製剤ではウイルスの遺伝子変異によりスパイクの形状が変化して抗体が結合できなくなる「エスケープ変異」が懸念されている。この問題を克服するために、共同研究グループは新型コロナウイルス受容体であるACE2タンパク質に着目し、ウイルスとの結合力を高めることで高い中和活性を持つタンパク質製剤の開発に取り組んだ。
ACE2のウイルススパイクとの結合力を100倍以上に高めることに成功
研究グループは、「指向性進化法」という、試験管内でACE2タンパク質をウイルスに結合しやすくなるように進化させる方法を用いた。まず、ACE2遺伝子をエラーが入りやすい条件で増幅させることで、約10万種類のACE2変異体ライブラリを作製。次に、それぞれの変異体を細胞表面に発現させてウイルスのスパイク成分とよく結合するものを回収する。
回収されたACE2変異体にさらに変異を導入し、同様の流れでよりスパイク成分と結合するものを回収。これを繰り返すことで最終的にACE2のウイルススパイクとの結合力を100倍以上に高めることに成功した。結合力の指標である解離定数(KD値)は、野生型41.4nMに対し、改変ACE2で0.37nMと、抗体製剤と同等以上の結合力を達成した。
新型コロナに対する中和実験、改変型ACE2-Fcで良好なウイルス中和活性
次に、この高親和性改変ACE2に抗体のFc領域を結合させたタンパク質製剤を合成し機能評価を行った。Fcを結合させることで体内での薬物動態が安定化することや、2量体になり中和活性が向上することが期待できる。
シュードウイルスに対する中和実験では、各濃度のACE2-Fcとウイルスを293T/ACE2細胞と1時間反応させ、48時間後にルシフェラーゼアッセイ法により感染率を評価。50%感染阻害濃度(IC50)が野生型で12.6µg/mLであるのに対し、改変型は0.055µg/mLと約200倍の有効性を認めた。
また、新型コロナウイルスに対する中和実験では、各濃度のACE2-Fcとウイルスを Vero6/TMPRSS2細胞と2時間反応させ、24時間後に培地中に分泌されたウイルスコピー数をリアルタイムPCR法で評価した。一般的な抗体製剤の血中濃度領域において改変型ACE2-Fcで良好なウイルス中和活性が確認された。
今回開発された高親和性改変ACE2タンパク質を用いて、高いウイルス中和活性を持ち、かつウイルスの遺伝子変異による薬剤耐性が問題とならない、新たなモダリティによる治療薬の開発に取り組む。創薬は、株式会社生命科学インスティテュートと共同で行う。「この製剤を、安全にヒトへ投与し普及させることができれば、世界を脅かしているCOVID-19に終止符を打つことが期待される」と、研究グループは述べている。
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