小児心不全は大規模臨床治験が困難なことから、エビテンスのある治療薬は存在しない
信州大学は11月12日、特異的治療薬の無かった新生児・乳児の心不全の治療に適した新規薬物標的を、世界で初めて同定したと発表した。この研究は、同大鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所 川岸裕幸助教、同大医学部分子薬理学教室 山田充彦教授らの研究チームによるもの。研究成果は、「Journal of American College of Cardiology: Basic to Translational Science」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
小児心不全には現在でもエビデンスのある治療薬がない。その最大の理由は、小児心不全の原因や病態が多彩で、大規模臨床治験が困難なことにある。そのため現在、小児心不全患者は成人用の薬を用いて治療されている。しかし、成人では安全・有効な薬物が、小児でも安全か否かのエビデンスはほとんどない。
現在、ほとんどの先天性心奇形は外科的修復が可能だ。心移植が必要な場合も、発達した補助人工心臓により待機可能時間を稼げる。また、小児心移植も徐々に症例が重ねられており、ヒトiPS細胞由来心筋細胞移植などの臨床治験も始まっている。しかし、これらの外科的治療前後の保存的治療にも、小児心不全治療薬が必要となる。この観点から研究チームは、「小児循環の特性を精査した基礎研究から、新薬のコンセプトを提唱する」という方針で研究を行った。
βアレスチンバイアスAT1アゴニストが、副作用の少ない心収縮力増強薬となる可能性
研究では、所定の承認を受けた研究方法でマウスの新生児・乳児を用いた。着目した標的の刺激が、これらの動物の心収縮力を高め、かつ多くの強心薬に認められる心拍数増加、不整脈誘発などのさまざまな副作用を、ほとんど生じないことを確認した。また、ヒトiPS細胞由来幼若心筋細胞でもこの経路が保存されており、この経路の刺激はヒト先天性拡張型心筋症の遺伝子変異を導入したモデルマウスの新生児の病的心臓でも、有意に縮力を増強することを確認した。
これらの結果から、新生児・乳児の心収縮力を選択的に高める薬(βアレスチンバイアスAT1アゴニスト)は、ヒトでも副作用の少ない心収縮力増強薬となる可能性があり、この時期の心不全に対する薬が開発される可能性が出てきた。研究グループは「製薬企業と協働で世界初、かつ日本発の外来患者でも使用可能な小分子小児心不全治療薬の開発を目指す」と、述べている。
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