X線画像の目視での肺高血圧症検出精度は60%前後
徳島大学は11月17日、胸部単純X線画像を用いることで肺高血圧症を検知し、予後を推定するAIを世界で初めて開発したと発表した。これは、同大病院循環器内科の楠瀬賢也講師、佐田政隆教授らの研究グループと、帝京大学大学院医療技術学研究科診療放射線学専攻の古徳純一教授らによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
肺高血圧症とは肺動脈の血圧が高く、息切れを生じる状態を指すが、血圧計で簡単に測ることができる全身の血管と違い、肺動脈の血圧は侵襲性の高い心臓カテーテル検査でしか測ることができないため、発見が遅れることが多い疾患である。また、肺高血圧症という疾患に慣れている医師や看護師が少ないことも発見が遅れる理由の一つだ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による肺障害から肺動脈圧が上昇することで、患者の予後が悪化することも知られてきており、肺高血圧症診断の臨床的重要性はさらに増している。
医療現場で一般的に利用され、患者への負担が少ない胸部単純X線画像は、撮影が簡便であり車両にも搭載できるアクセス性の高さに加え、誰が撮像しても同じ画像が得られるという再現性の高さという利点がある。肺高血圧症を疑う際、胸部単純X線画像は用いられるが、専門家の目による検出精度は60%前後であり、より精度の高い方法の開発が望まれている。
900症例をAI解析により肺高血圧の有無をAUC0.71で分類、陰性的中率95%
研究グループはこれまで、循環器領域の医療画像に人工知能(AI)を用いることで、心筋梗塞の同定、心機能の評価に関する研究を行ってきた。今回、肺高血圧症について、AI技術、特に新しいAIであるディープラーニングを用いることで、心臓カテーテル検査でしか診断できない肺動脈圧上昇を、胸部単純X線画像より精度高く検知可能か、さらに将来の病態悪化が予測可能かを検証した。
開発したAI技術を用いて、900症例の胸部単純X線画像および心臓カテーテル検査結果を解析したところ、肺高血圧の有無をAUCが0.71(専門医のAUC:0.63)で分類可能だった。この結果はAIの方が有意に高い精度で、特に検証コホートにおいて陰性的中率が95%と高い値を示した。
加えて、長期経過観察の結果、AIにより肺高血圧の存在が疑われた症例は、そうではない症例と比較し、約2倍の確率でその後の病態悪化が多いことがわかった。これらの結果から、人の目で判断するより、AIを用いたほうが肺高血圧の存在のみならず、その後の予後も判定できる可能性が示された。
注目領域を可視化するアルゴリズムを適用、「説明可能なAI」に
また、これまでの多くのディープラーニングによる判断プロセスはブラックボックスであるため、専門家でもAIが出した回答の理由や根拠を説明できないことが問題となっていた。この問題を解決するため、注目領域を可視化するアルゴリズム(Grad-CAM)を適用することでAIが画像のどこに注目をして判断を下しているかを、胸部単純X線画像上に色の濃淡で表示。この結果、AIの注目領域と医師の注目領域が一致していることを確認した。これにより、開発したAIモデルがより信頼性の高い「説明可能なAI」として臨床に用いられることが期待される。
一般的に利用される胸部単純X線画像に開発したAI技術を用いることで、従来の目視による画像診断よりも高い精度で非侵襲的に肺高血圧を検知し、かつ予後を推定することが望まれる。「循環器画像領域において、今後のAI技術応用のキーとなる研究であり、肺高血圧症をきたすさまざまな疾患(COVID-19等)への応用も期待される」と、研究グループは述べている。
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・徳島大学 研究成果