歯周病の糖尿病の病態悪化において骨格筋との臓器特異的な関連性が予想される
東京医科歯科大学は11月17日、歯周病原細菌の感染が腸内細菌叢の変化を伴い骨格筋の炎症関連遺伝子群を上昇させ、脂肪化を亢進、インスリンシグナルの低下とともに糖の取り込みを阻害することを見出したと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科歯周病分野の片桐さやか講師、渡辺数基日本学術振興会特別研究員(DC2)、岩田隆紀教授と、佐賀大学医学部附属病院肝疾患センター高橋宏和特任教授の研究グループと、東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター分子遺伝学研究部の廣田朝光講師、東京医科歯科大学教養部生物学教室の服部淳彦教授、同大医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授、同大難治疾患研究所エピジェネティクス分野の松沢歩助教との共同研究によるもの。研究成果は、「The FASEB Journal」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
近年、歯周病は他のさまざまな全身疾患(糖尿病、肥満等)の増悪因子となることが示されてきた。歯周病は糖代謝において重要な役割を果たす臓器である肝臓の脂肪化を増悪させる因子の一つでもあることが明らかとなってきたが、他の糖代謝に関わる臓器との関連については報告がほとんどない。
骨格筋は体重の約40%を占める最大の臓器であり、運動や姿勢保持のみならず全身の糖代謝調節においても基幹的役割を担っている。歯周病が糖尿病の病態を悪化させる機序の一つにインスリン抵抗性の惹起が挙げられるが、インスリン依存的に糖の取り込み・代謝を行う組織である骨格筋に注目した報告はいまだに無く、歯周病の糖尿病の病態悪化において骨格筋との臓器特異的な関連性が予想されるものの、現状ではそのメカニズムは解明されていない。
骨格筋脂肪化マーカーと歯周病原細菌Pgの血清抗体価に有意な相関
研究グループは、骨格筋組織の脂肪化に着目。ヒト臍部CT画像に描出された腰筋群をCT値解析し、骨格筋の脂肪化マーカーを算出、歯周病原細菌の血清抗体価との関連を調査した。その結果、脂肪化マーカーと歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg)の血清抗体価に有意な相関がみられることがわかった。
そこで、Pgの感染による骨格筋の影響を調査するため、Pg嚥下感染モデルマウスを用いて実験を行った。脂肪化への影響を調査するため、Oil red o染色を行なったところ、Pgの投与により遅筋であるヒラメ筋では有意に脂肪化が亢進していることがわかった。また、遺伝子発現をqPCR法で検証したところ、Pgの投与によりTnfaやIl6などの炎症関連遺伝子が上昇し、マイクロアレイ解析において、炎症関連遺伝子群が上昇を認めた。
Pg感染マウスで骨格筋の代謝異常を引き起こす
続いて、研究グループは糖の取り込みを評価するため、2−デオキシグルコース(以下2DG、グルコースと同様に細胞内へ取り込まれるが、リン酸化された後次の酵素反応へ進まない)を用いて、筋組織に取り込まれた糖を定量する系を立ち上げた。
マウスに2DGを投与すると、Pg投与群においてはヒラメ筋における糖の取り込みが有意に阻害されていることが確認された。また、ウエスタンブロッティング法でインスリンシグナルの指標となるAktのリン酸化を評価したところ、Pg投与群ではリン酸化の阻害が確認され、インスリンシグナルが低下していることが確認された。
さらに、次世代シークエンサーを用いて腸内細菌叢の細菌種の同定、細菌種間の相関関係を解析した結果、Pgの投与はTricibacter属を減少させ、細菌叢を変化させていることがわかった。細菌同士の相関関係を示したネットワーク構造も、ひとつのネットワークに関わる細菌種が減少していることがわかった。
歯周病の予防・治療がメタボリックシンドロームとサルコペニア防止につながる
今回の研究から、メタボリックシンドローム症候群の患者では骨格筋脂肪化マーカーと、Pgの血清抗体価が有意に相関していることを明らかにした。また、Pgを投与したマウスでは、腸内細菌叢の変化を伴い骨格筋の炎症関連遺伝子群が上昇、脂肪化の亢進、インスリンシグナルの低下とともに糖の取り込みが阻害されていることを見出した。
研究成果は、Pgの感染が骨格筋の代謝異常を引き起こし、メタボリックシンドロームのリスクファクターとなっている可能性、およびサルコペニアへとつながる可能性を示すものだ。サルコペニアは筋肉量の低下を主体とし、機能的低下をも含む概念ですが、動作の俊敏性が失われ転倒しやすくなる身体的問題に直結する。「歯周病のさらなる危険性が注意喚起され、健康寿命の延伸へとつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース