腸内細菌叢が睡眠に及ぼす影響について調査
筑波大学は11月16日、腸内細菌叢の除去が睡眠の質を低下させる可能性があることを発表した。この研究は、同大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の柳沢正史教授、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
食事の選び方やタイミングは腸内に生息する細菌叢のバランスや日内変動を変化させ、腸内環境に大きな影響を与えることがわかっている。また腸内環境と脳機能は相互に作用しあっていることが明らかにされている。この関係は脳腸相関と呼ばれ、心身の健康維持において重要な役割を担っているとして、近年、注目を集めている。
睡眠も脳機能の一つであり、腸内環境からの影響を受けている可能性が考えられる。そこで、研究グループは、腸内環境の重要な要素である腸内細菌叢が睡眠に及ぼす影響について調査した。
腸内細菌叢を除去すると、腸管内での代謝が大きく変化し、睡眠覚醒パターンや睡眠の質も変化
研究では、まず4種類の抗生物質を飲水に混合してマウスに4週間経口投与し、腸内細菌叢を除去したマウスを作製。この腸内細菌叢除去マウスと正常なマウスの盲腸内容物をメタボローム解析し、腸管内の代謝物質プロファイルを調べた。その結果、246種の代謝物質が検出され、そのうち114種が、腸内細菌叢除去マウスでは正常なマウスと比較して有意に減少、95種が有意に増加していることがわかった。特に、神経伝達物質の合成に関係するアミノ酸代謝経路に大きな変動が見られ、腸内細菌叢除去マウスではビタミンB6が有意に減少し、精神を安定させる働きのある神経伝達物質のセロトニンが枯渇していた。一方で、抑制性神経伝達物質であるグリシンとγアミノ酪酸(GABA)には有意な増加が認められた。
続いて、脳波・筋電図を計測して睡眠・覚醒状態を解析したところ、腸内細菌叢除去マウスでは、正常なマウスと比較して日中(マウスの睡眠期)のノンレム睡眠が減少し、逆に夜間(マウスの活動期)にはノンレム睡眠とレム睡眠注の増加が認められた。これは、24時間の活動リズムは維持されているものの、本来、睡眠を取る時間帯に活動が増え、逆に活動が盛んな時間帯に睡眠をとっており、昼夜のメリハリが弱まっていることを示している。また、レム睡眠は、1回の持続時間は変わらないが、出現頻度が増加し、ノンレム睡眠とレム睡眠の切り替わりがより多く生じていた。脳波波形を詳しく分析してみると、覚醒中とノンレム睡眠中の脳波スペクトルには、正常なマウスと腸内細菌叢除去マウスで有意な違いはなかったが、レム睡眠に特徴的な脳波成分であるシータ波スペクトルパワー密度が、腸内細菌叢除去マウスにおいて弱まっていた。これらのことから、腸内細菌叢を除去すると腸管内での代謝が大きく変化するとともに、睡眠覚醒パターンや睡眠の質にも変化が起こることが明らかになった。
腸内細菌叢がどの代謝物質・情報伝達経路を経て影響を及ぼすかを継続研究
研究グループは引き続き、腸内細菌叢がどのような代謝物質・情報伝達経路を経て、睡眠覚醒パターンや睡眠脳波に影響を及ぼすのか、また、睡眠不足に陥ったときに腸内環境にどのような作用をもたらすのかなど、さらに研究を進めている。
睡眠を含めた脳機能と腸内環境との関係が明らかになるに従い、生活習慣を通じた腸内環境の調整が、心身の健康維持のためにいかに重要であるかも明らかになってきた。「本研究の進展により、現代社会において多くの人が悩みを抱える睡眠の問題を、日々の食習慣を整えるセルフケアによって解決できるようになるかもしれない」と、研究グループは述べている。
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