若者の「恋愛への興味関心」低下の実態は?
東京大学は11月11日、日本の異性間の交際状況の実態を把握するため、国立社会保障・人口問題研究所が実施する「出生動向基本調査」のデータ分析を行い、その結果を発表した。これは、同大大学院医学系研究科国際保健政策学分野の上田ピーター客員研究員、サイラスガズナビ客員研究員、坂元晴香特任研究員、野村周平特任助教、窪田杏奈客員研究員、米岡大輔客員研究員、渋谷健司客員研究員によるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
日本は合計特殊出生率が世界で最も低い国の1つであり、日本の総人口は今後2060年までに3分の1が減少すると予想されている。低い出生率の要因はさまざま指摘されているが、その1つに、若年成人が恋愛への興味を失っていること(いわゆる「草食化」)が、出生率の低下に寄与している可能性も指摘されている。日本人の成人における「草食化」(異性と交際をしていない、異性との交際に興味がない人)の実態に関しては、依然として判明していないことが多い。現時点では、異性と交際をしていない人や異性との交際に興味がない人の割合およびその経年的変化について、またこれらに影響を与える要因については良く調べられていない。
今回の研究では、1987年から2015年に行われた国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(計7回分)を用いた。この調査は18〜39歳の成人を対象としており(1987年の調査のみ18〜34歳が対象)、サンプル数は1万1,683〜1万7,675人[1987〜2010年]であった。その調査データから、1.全人口における異性と交際をしていない割合および数の推定、2.全人口における異性との交際に興味を持たない割合、3.異性との交際や交際への興味と関連する社会的・地域的要因の関係性の評価を行った。
「異性と交際しない女性」、1992年27.4%から2015年は40.7%に増大
18〜39歳の女性のうち、異性と交際をしていない人の割合は1992年の27.4%から2015年には40.7%と大幅に上昇していた。年齢グループ別に分析を行うと、年齢階級が上がるほど、異性と交際をしていない人の割合が大幅に増加していることがわかった。18〜24歳では60.0%から65.5%、25〜29歳では23.0%から41.9%、30〜34歳では11.3%から30.2%、35〜39歳では11.2%から24.4%であった(いずれも1987年から2015年の間の変化割合)。
男性では、18〜39歳における異性と交際をしていない人の割合は、1992年の40.3%から2015年には50.8%に上昇していた。年齢階級別でみると、18〜24歳では71.8%から75.9%、25〜29歳では45.8%から55.1%、30〜34歳では26.9%から39.3%、35〜39歳では20.4%から32.4%であった(いずれも1987年から2015年の間の変化割合)。
1987年から2015年の間には、婚姻割合も大幅に減少しているが、その多くはシングル(未婚で交際相手がいない)の増加につながっていることがわかった。「結婚はしていないが交際相手はいる」人の数は、ほぼ不変であることから、結婚をしていない人は、そのままシングルの増加につながった。また、異性との交際への興味についても、2015年には、18~39歳のシングルの約半数(女性全体の21.4%、男性全体の25.1%)が異性間交際に関心がないと回答している。
低収入や学歴が異性との交際関係に関連か
女性で、既婚者およびシングルで交際に関心がないと回答した人は、交際中の女性や交際に関心があるシングルに比べて無職である割合が高いことがわかった。ただし、既婚者に関しては専業主婦が含まれるため解釈には留意が必要である。さらに、交際に関心が無いと回答したシングル女性は、交際に関心が有ると回答したシングル女性と比較して、高卒以下の学歴が多いことがわかった。男性でもこの傾向は顕著で、定職についている割合は、既婚者、交際中、交際に関心の有るシングル、交際に関心の無いシングルの順で減少している(既婚者ほど定職についている割合が多い)。また、年収についても同様の傾向が見られ、既婚男性の年収が最も高く、交際に関心の無いシングルで最も年収が低いことがわかった。
日本においては、収入と男性の婚姻状態は関連しており、過去数十年にわたる不安定な雇用状況が、日本における低い婚姻率および出生率に関連しているとされている。同様に、今回の研究からも雇用や収入状態が男性においては異性との交際機会の有無にも影響していることが明らかになった。日本政府は、婚活イベント、妊娠出産に関する教育プログラムを実施するなど、ワークライフバランスの推進や子育て環境の整備等、さまざまな政策を通じて結婚・妊娠・出産・子育てを奨励しているものの、日本の出生率は低いままである。
異性と交際していない人の割合、英・米と比較して高い
日本成人における異性と交際していない人の割合は諸外国と比較しても高い。英国で行われたNatsal-3研究(2010~2012年)によると、交際相手がいないと答えた女性の割合は41.5%(18~24歳)、23.6%(25~29歳)、16.3%(30~34歳)、14.0%(35~39歳)であった。男性では、この数字はそれぞれ52.6%、32.5%、14.7%、11.8%であった。
また、米国で2012~2018年の間に行われたGeneral Social Surveyによると、交際相手がいないと答えた女性の割合は、62.6%(18~24歳)、25.2%(25~29歳)、20.0%(30~34歳)、16.6%(35~39歳)であった。この数字は、男性ではそれぞれ81.4%、55.8%、35.9%、22.0%であった。ただし、英・米の調査では異性に限らず同性を含めた交際を対象にしていることに留意が必要である。
不安定な雇用や経済状況の改善を目指す政策で、恋愛への関心高まるか
健康や生活の満足度に恩恵をもたらす社会的なつながりは異性との交際以外にもあり、中には恋愛関係を持たずに生きたいと考える人もいるであろう。また、出生動向基本調査では同性間の交際に関する質問が含まれていないことにも留意が必要である。とはいえ、恋愛関係に興味を失ったり、あきらめたり、恋愛関係を築くのが難しいと感じている若年成人の割合が高いことは、公衆衛生や出生率に大きな示唆をもたらしうるものである。
研究結果は、雇用機会の改善や不安定な経済状況の改善を目指す政策が、恋愛や結婚への関心の高まりにつながる可能性を示唆している。「今回の研究からは、過去30年の間に異性と交際をしていない人の割合が増えたことが明らかになったが、その要因は何か、また増加する異性と交際をしていない人の割合が生活の質や満足度、少子化やその他公衆衛生に及ぼしうる影響については、今後さらなる研究が必要である」と、研究グループは述べている。
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・東京大学大学院医学系研究科 プレスリリース