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WNK阻害剤、大腸がん抑制をマウスで確認-東京医歯大ほか

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2020年11月16日 PM12:00

Wntシグナルの制御機構標的の阻害剤、臨床応用にはほとんど進んでおらず

東京医科歯科大学は11月11日、WNKがβ-cateninのタンパク量を調節することでWntシグナルを制御していることを見出し、マウスモデルを用いてWNK阻害剤が大腸がん形成を抑えることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大難治疾患研究所分子細胞生物学分野の澁谷浩司教授と清水幹容助教ら、同大生体材料工学研究所の薬化学分野の影近弘之教授、日本医科大学先端医学研究所の田中信之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Communications Biology」掲載されている。


画像はリリースより

がんは、日本における死亡率の第1位を占めている疾患であり、新たにがんと診断される患者は年間約100万人に上る。特に、大腸がんは諸外国に比べて日本での死亡率が高いことが知られており、罹患数も最も多い。

ほとんどの大腸がんで観察されるWntシグナルの異常な活性化は、大腸がんに限らず多くのがんにおいて、転移・再発といった悪性化や生存率の低下と相関関係にある。そのため、Wntシグナルの制御機構を標的とした阻害剤は有用ながん治療法となることが期待されている。

WntシグナルがOFFの状態では、エフェクター分子であるβ-cateninがGSK3βによりリン酸化され、その後E3リガーゼβ-Trcpを介してユビキチン化されることで分解され、細胞内で一定の量が保たれている。一方、WntシグナルがONの場合は、β-cateninのリン酸化・ユビキチン化が抑制されることで安定化し、核内へと移行することで標的遺伝子の発現を活性化するとされている。

大腸がんを含む多くのがんでは、このWntシグナルの構成分子に変異がみられ、WntシグナルがOFFの状態でもβ-cateninの分解が阻害され、結果として異常に活性化することが知られている。このことから、長年Wntシグナルの制御分子に対する阻害剤の研究について多く報告されてきたが、Wntシグナルの多様な生理活性から、臨床応用にはほとんど進んでいないのが現状だ。

これまで研究グループは、WNKが血圧調節に関与することやWNKがGSK3βを制御し神経細胞分化に関与することなどを明らかにしている。一方、WNK分子が直接Wntシグナルを制御することは明らかになっていなかった。

WNKのノックダウンによるβ-cateninの分解、MAEAとRMND5Aユビキチン化で生じる

今回、研究グループは、Wntシグナルに対するWNKの影響を調べるため、WNKの発現をノックダウンした際のβcateninの発現を調べた。その結果、β-cateninが分解促進されることを確認した。

また、WNKと結合する新規E3リガーゼとしてMAEAとRMND5Aを発見し、β-catenin分解との関連を調べた。その結果、MAEAとRMND5AはWNKだけでなくβ-cateninとも結合することが判明。WNKのノックダウンによるβ-cateninの分解が、MAEAとRMND5Aによるユビキチン化によって引き起こされることも明らかになった。

WNK阻害剤投与の大腸がんマウス、濃度依存的に大腸がん縮小

大腸がんで観察される活性化型のβ-catenin変異体(通常のリン酸化、ユビキチン化による分解制御を逸脱したもの)も、WNKをノックダウンすることで分解されることもわかった。したがって、WNKの発現をノックダウン、もしくは機能を阻害することができれば、大腸がんでのWntシグナルの異常な活性化を抑制でき、抗腫瘍効果を発揮することが期待できると研究グループは考えた。

そこで、これまで血圧調節を目的として報告されてきたWNK阻害剤を用い、大腸がん細胞を移植したマウスに投与し抗腫瘍効果を調べた。その結果、ある1種のWNK阻害剤を投与したマウスでは、濃度依存的に大腸がんの大きさが縮小すること、実際にそれらの腫瘍ではβcateninの量が抑制されていることを明らかにした。

WNK、新規抗がん剤の標的分子として期待

これまで、WNKによるWntシグナル分子β-cateninの分解制御機構は全く知られていなかった。今回の研究では、β-cateninの新規結合分子としてE3リガーゼであるMAEAとRMND5Aを発見し、WNKがMAEA/RMND5Aによるβ-cateninのユビキチン化を阻害することでβ-cateninの分解を抑制し、Wntシグナルを制御することを見出した。

また、WNK阻害剤の投与によりWntシグナルの抑制を介して大腸がん形成を抑えることができたことから、WNKが新たな抗がん剤の標的分子となると期待される。

さらに、高血圧症や遺伝性神経障害の原因遺伝子として知られていたWNKが生体の恒常性維持や多くのがんに関与するWntシグナルを制御していることは、この分野における新たな展開を生み出すこととなり、加えてWntシグナルの異常な活性化ががん以外の疾患においても観察される現象であることからも、同研究成果は多様な疾患に対する非常に有用な知見となると考えられる、と研究グループは述べている。

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