自己免疫性肝炎発症に必須のiNKT細胞、活性化に重要な分子は?
北海道大学は11月12日、アダプター分子であるSTAP-1が、インバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞の維持及び肝炎の発症を抑制する新たな分子であることを発見したと発表した。これは、同大大学院薬学研究院の柏倉淳一講師及び松田 正教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
自己免疫性肝炎は、自己免疫疾患の一種で現在国内に約1万人の患者がおり、50~60歳代の女性が発症の中心だが、若い人や男性でも発症する。自己免疫性肝炎では、血液中に自分の細胞に対する抗体量が増加する特徴があるが、発症メカニズムはわかっていない。また、治療には副腎皮質ステロイドの飲み薬が一般的に使用されるが、使用をやめると病気が再発するため常に薬を飲まなくてはならず、根治を目指すための新たな治療方法の開発がこの病気の課題となっている。
自己免疫性肝炎の発症にはリンパ球が関与し、リンパ球にはさまざまな種類が存在するが、特にiNKT細胞が自己免疫性肝炎の病態に関わることがマウスを用いた以前の研究から示唆されている。iNKT細胞は身体のさまざまな組織に存在するリンパ球の一つで、自己免疫性肝炎の発症にはiNKT細胞から産生されるIL-4が関係するが、その詳細なメカニズムは不明であり、新規治療法開発には新たな治療標的となる分子の発見が必要だ。
STAP-1はリンパ球などで多く発現し、さまざまな免疫疾患の原因になる恐れがあるアダプタータンパク質だが、免疫疾患発症との関係性についての報告はほぼない。そこで研究グループは世界に先駆け、STAP-1が体内に存在しないマウス及びリンパ球だけに多く発現しているマウスを作製し、自己免疫性肝炎の病態形成に対するSTAP-1の関与を調べた。
STAP1 KOで肝炎が重症化しSTAP-1 Tgで肝炎発症抑制
まず、自己免疫性肝炎を擬似的に再現できるコンカナバリンA誘導性肝炎マウスモデルを用いて、発症に対するSTAP-1の影響を調べた。野生型マウスと比較すると、研究グループが樹立したSTAP1 KOでは死んだ肝細胞の領域が多くなり、肝障害を示すALT値や肝炎発症に関わるIL-4量が上昇した一方、STAP-1 Tgでは肝細胞死の減少及び肝障害の抑制が観察された。
コンカナバリンA投与で発症する肝炎にはiNKT細胞が必要なため、より直接的にiNKT細胞を活性化できるαガラクトセラミドを投与し、肝炎発症に対するSTAP-1の影響を観察した。すると、野生型マウスと比べてSTAP1 KOで肝炎が重症化しSTAP-1 Tgで肝炎発症の抑制が見られた。これらの結果から、STAP-1が自己免疫性肝炎の重症化を抑えるタンパク質である可能性が示唆された。
STAP-1はiNKT細胞数を調節し、iNKT細胞の活性化を抑制
次に、STAP-1が肝炎重症化を抑制するメカニズムを調べるため、2つの点に着目し、さらに解析を行った。1点目は、iNKT細胞数がSTAP-1 KOやSTAP-1 Tgで変化しているのかという点で、これらのマウスの肝臓・脾臓から細胞を回収しiNKT細胞の割合を調べ、野生型マウスの割合と比較した。すると、これらの臓器に存在するiNKT細胞の割合がSTAP-1 KOで増加し、STAP-1 Tgでは減少した一方、iNKT細胞の分化(iNKT細胞ができる過程)については明らかな差はなかった。
2点目は、STAP-1がiNKT細胞の反応性をどう変化させるかという点で、研究グループはSTAP-1を細胞内で過剰発現させた不死化マウスiNKT細胞を作製し、過剰発現していない不死化iNKT細胞との反応性の違いを調べた。これらの細胞をコンカナバリンAで刺激すると、iNKT細胞の活性化反応を示すIL-4及びIFN-γの産生量がSTAP-1過剰発現不死化iNKT細胞で減少し、さまざまな分子の活性化度合いが低下していたという。
今回の研究で、STAP-1は、「iNKT細胞数の調節」と「iNKT細胞の活性化を抑制」することで自己免疫性肝炎の重症化を抑えることが示唆され、STAP-1が自己免疫性肝炎に対する新たな治療標的となる可能性が示された。今後、STAP-1を標的とした新規治療薬の開発の進展が期待される。
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