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世界で流行中の変異型SARS-CoV-2、野生型より飛沫伝播感染しやすい-東大医科研ほか

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2020年11月16日 PM12:45

D614G変異が増殖特性や病原性に与える影響は?

東京大学医科学研究所は11月13日、現在世界中に蔓延している新型コロナウイルス()のSpikeタンパク質にD614Gの変異を持つ、variantウイルスの性状解析を行い、D614G変異が、ウイルスの増殖適応と動物間の感染伝播の高さに寄与することを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らのグループが国立感染症研究所および米国の複数の研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Science」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

新型コロナウイルスSARS-CoV-2は2019年12月にヒトでの感染が報告されて以来、現在も世界的な感染拡大を続けている。その間に、Spikeタンパク質のアミノ酸残基614番のアスパラギン酸がグリシンに置換わる変異()を持つvariantウイルスが出現し、圧倒的に優勢になり、現在世界で蔓延しているのはこのvariantウイルスだ。

Spikeタンパク質はSARS-CoV-2のウイルス粒子表面に発現し、宿主の受容体と結合することで感染が成立する。先行研究では、タンパク質の構造解析から、Spikeタンパク質にD614Gの変異が入ることで、Spikeタンパク質が宿主の受容体に結合しやすい構造になる傾向があることが明らかにされた。しかしこれまで、D614G変異がSARS-CoV-2ウイルスの性状、増殖特性や病原性にどのような影響を与えるか、という点は細胞レベルでも感染動物個体においても明らかにされていなかった。

培養細胞において、D614Gウイルスは野生型に比べ増殖適応が高い

今回の研究ではまず、リバースジェネティクス法により、野生型ウイルスと、Spikeタンパク質D614G変異のみの違いを持つウイルス(D614Gウイルス)を人工合成した。これにより、この変異が与える影響を厳密に調べることが可能となった。

野生型/D614Gそれぞれについて、感染成立のマーカーとしてルシフェラーゼを発現するウイルスを人工合成し、細胞への取り込みを比較したところ、D614Gウイルスを感染させた細胞では、感染後8時間の時点で3~8倍高いルシフェラーゼの発現が見られた。このことは、D614G変異が細胞への侵入の効率を高めていることを示す。

また、ヒト呼吸器での増殖を比較するため、ヒトの鼻上皮、肺から分離されたプライマリ細胞での増殖を比較したところ、特に鼻上皮細胞において、D614Gウイルスが有意に高い増殖を示した。これは、Vero-E6細胞やA549-ACE2細胞(ヒト肺由来細胞株A549にSARS-CoV-2の受容体であるACE-2を発現させた細胞)といった実験細胞株では見られない傾向だった。

ウイルスの増殖適応にD614G変異が与える影響を調べるために、野生型とD614Gウイルスを1:1の割合で混合して、細胞において競合継代したところ、継代3代以内に、混合ウイルスのpopulationではD614Gウイルスが圧倒的に優位になり、野生型ウイルスはほとんど検出されなくなった。野生型とD614Gを10:1の割合で混合した場合にも、継代3代でD614Gウイルスが圧倒的に優位になった。このことは、D614G変異がウイルスの増殖適応を強めることを示唆する。

ハムスターなど動物個体において、D614Gウイルスは病原性に大きく影響しない

Spikeタンパク質は、ウイルスの表面に発現することから、ワクチンのターゲットとしても重要で、D614G変異が異なる抗原性を示すか否かは、非常に興味深い問題だ。ヒト回復患者の血清を用いて、野生型、D614Gウイルスに対する中和能を比較したところ、有意な差は見られなかった。また、SARS-CoV-2のSpike-RBD(レセプター結合ドメイン)に結合するモノクローナル抗体との反応性にも、野生型、D614Gウイルス間で有意な違いがみられなかった。このことは、D614Gが野生型ウイルスと類似した抗原性を示すことを示唆する。すなわち、野生型ウイルスを基にして開発が進められてきたワクチンは、D614Gウイルスに対しても、野生型ウイルスに対してと同様の効果が期待されると考えられる。

さらに、動物個体におけるD614G変異の影響を調べるために、ヒトACE2トランスジェニックマウスとハムスターを用いて感染実験を行った。まず、呼吸器でのウイルスの増殖を比較するために、同じ感染力価の野生型あるいはD614Gウイルスで感染させ、肺、鼻甲介でのウイルスの増殖を比較したところ、ヒトACE2トランスジェニックマウスとハムスターいずれにおいても、野生型とD614Gウイルス間で、有意な差は見られなかった。また、感染後の肺の炎症の程度にも、野生型とD614Gウイルス感染個体間で有意な差は見られなかった。すなわち、D614G変異は動物個体における病原性には大きく影響しないことがわかった。

ハムスターモデルでD614Gウイルスは、野生型より飛沫感染伝播しやすいと判明

さらに、D614G変異がウイルスの感染伝播に与える影響を調べるため、ハムスターを用いた飛沫感染伝播実験を実施。ハムスターを、野生型ウイルスあるいはD614Gウイルスで感染させ(感染個体)、感染個体のケージから、直接接触を避けるために5cm離したケージで、非感染個体(曝露個体)を飼育した。このような、感染個体・曝露個体のペアを、野生型、D614Gウイルスそれぞれについて8ペア用意した。野生型ウイルスについては、2日後では曝露個体の鼻洗浄液からウイルスは検出されなかったが、4日後には8ペアの曝露個体全てからウイルスが検出された。一方、D614Gウイルスでは、曝露から2日後の時点で8ペア中5ペアの曝露個体でウイルスが検出された。この結果は、D614G変異がより高い飛沫感染効率に寄与していることを示唆する。

動物個体においても、D614Gウイルスは野生型に比べ増殖適応が高い

最後に、ウイルスの増殖適応を動物個体において比較するために、ハムスターにおいて競合継代実験を行った。ハムスターを野生型:D614G=1:1の混合ウイルスで感染させ、3日後に肺から分離されたウイルスで、次代のハムスターを感染させた。3代の継代で、肺から分離されるウイルスのpopulationはD614Gウイルスが優位になった。この結果は、細胞株のみならず、動物個体においてもD614G変異が増殖適応性を強めていることを示唆する。研究グループは、今回の結果について、「D614Gウイルスが非常に短期間で元の野生型ウイルスを凌駕して感染拡大したことを説明付けるものと考えられる」と、述べている。

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