炎症性腸疾患の合併症による死因で最も頻度が高い「静脈血栓症」
東北大学は11月12日、炎症性腸疾患患者の静脈血栓症の遺伝的リスクの有病率とその影響の大きさを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学系研究科消化器病態学分野の内藤健夫医師、正宗淳教授らの研究グループと、米国シーダースサイナイのDermont P, McGovern, MD, PhDらが共同で行ったもの。研究成果は、「Gastroentelorogy」誌(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
日本における炎症性腸疾患の罹患率は増加の一途をたどっており、患者数は21万人を超えている。患者に発生する合併症の中には時として致命的になる疾患があり、静脈血栓症は合併症による死因の中で最も頻度が高い疾患だ。炎症性腸疾患患者は静脈血栓症発症のリスクが健常者と比較して3倍以上であることが報告されているだけでなく、近年承認された炎症性腸疾患に対する治療薬「ヤヌスキナーゼ阻害薬」の副作用に重篤な血栓症があることが知られている。
これらのことから、炎症性腸疾患患者に対する静脈血栓症リスクの層別化法の確立が求められてきた。事前に高リスク患者を同定することができれば、予防的抗血栓治療を行なったり、ヤヌスキナーゼ阻害薬の使用を避けたりするなど、適切な処置をとることが可能となる。これまでも、血栓症発症に関わる数個の遺伝子変異を調べることで、高リスク群の同定が試みられてきた。しかし、血栓症に関わる遺伝子は多数存在するため、正確な遺伝的リスクの同定は困難だった。
約15%の高リスク群は、他の患者と比べて約2.5倍発症リスクが高いと判明
今回、研究グループは、約800人の炎症性腸疾患患者の遺伝データを用いて、静脈血栓症に対する遺伝的リスクの頻度と影響の大きさを世界で初めて報告した。
同研究では、全エクソームシークエンシングと全ゲノムジェノタイピングの網羅的解析を行い、頻度は低いが影響が大きい遺伝子変異(レアバリアント)と、一つひとつの影響は小さいが、頻度が高い遺伝子変異(コモンバリアント)の情報を統合して解析したところ、約15%の炎症性腸疾患患者が遺伝的に静脈血栓症リスクの高い状態にあり、この患者群は、遺伝リスクが無い患者群と比較して、約2.5倍静脈血栓症発症リスクが高いことを発見した。また、遺伝的リスクを有する患者群では、複数の部位に静脈血栓症を発症する傾向があることも示されたという。
高リスク群では低リスク群と比較して8倍以上の静脈血栓症発症リスク
さらに、対象患者群を遺伝的リスクが無い患者群(低リスク群)、レアバリアントかコモンバリアントリスクのどちらか一方のみを有する群(中リスク群)、どちらも有する群(高リスク)に層別化したところ、高リスク群では低リスク群と比較して8倍以上の静脈血栓症発症リスクがあることを示した。これらの遺伝リスクが与える影響は、その他の血栓症発症に関わる因子(疾患の活動性や疾患に対する治療薬)の影響とは無関係だった。
今回の研究により、時として重篤になりうる静脈血栓症のリスクを、従来の方法よりも正確に同定する方法が明らかになった。「近年、全エクソームシークエンシングを始めとした遺伝データを得るためのコストは劇的に低下しており、本研究のような遺伝データに基づいた個別化医療の本格的な臨床応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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