10年間の感染追跡と全ゲノム解析を実施
新潟大学は11月9日、高い病原性や薬剤耐性率の要因と考えられるゲノム変異率が、実際にヒトに感染した北京型結核菌で高いことを実証し、潜伏感染時には酸化ストレスに依存する変異が多いことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科細菌学分野、呼吸器・感染症内科学分野の袴田真理子医師(大学院生)、同研究科呼吸器・感染症内科学分野の菊地利明教授、同研究科バイオインフォマティクス分野の瀧原速仁研究員、奥田修二郎准教授、同研究科細菌学分野の松本壮吉教授ら、神戸市環境保健研究所の岩本朋忠博士、大阪健康安全基盤研究所の田丸亜貴博士らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
結核は三大感染症の一つで、代表的な再興感染症。その病原体である結核菌は、現在も年間、最多の人命を奪っており、2018年の結核死亡者は150万人に及んでいる。結核菌は7系統に分類され、その中でも特にLineage2に属する北京型結核菌は、日本を含む東アジア地域の高蔓延系統であり、病原性や薬剤耐性化傾向が強いことが知られている。病原体ゲノムの変異率は、宿主応答への進化適応と薬剤耐性の出現を反映するが、ヒトに感染した北京型結核菌のゲノムの変異率は、明らかにされていなかった。
また、人類の約4分の1が結核の無症候性感染者と推定されているが、潜伏する北京型結核菌の複製率や突然変異率についても、よくわかっていなかった。潜伏期の突然変異率を理解することは、潜在性結核(LTBI)の治療法の設計に役立ち、LTBIが結核の発生母体であることから、結核の制御に直結する。
今回、1999年にある中学校で発生した結核集団感染の接触者と二次感染者の追跡によって、2009年までの間に結核を発症した患者より分離した、起源を同じくする北京型結核菌と別の事例で、初発時と再燃時の患者より分離した北京型結核菌の全ゲノム解析を実施した。
早期発症者由来株、長期潜伏後の発症者由来株よりも変異率が高い
今回、初発から1年以内に発症した早期発症者由来の結核菌株と、1年以上の潜伏期を経てから発症や再燃に由来するものの2群間で比較した。今回の研究で解析した北京型結核菌のゲノム変異率は、これまで報告されてきた他系統の結核菌の突然変異率よりも、およそ10倍高いことがわかった。
また、早期発症者由来の株では、長期潜伏後の発症者由来株よりも変異率が高く、一方で、長期潜伏菌では酸化的ストレスに起因する変異パターンが多いことが明らかとなった。
感染した結核菌系統に応じた治療法を検討する必要性も
北京型結核菌の突然変異率は他の結核菌系統よりも高いことから、その高頻度の薬剤耐性化を防ぐためには、感染した結核菌の系統により治療法を検討する必要性も考えられるという。
今後、結核菌系統の特性を理解し治療法を工夫することで、薬剤耐性化や重篤化を防ぐ有効な対策の構築につながることが期待される。
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・新潟大学 研究成果