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発症時刻不明「脳梗塞」、画像診断によるtPA静注療法が有用な可能性-国循ほか

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2020年11月10日 PM12:00

国内外の4つの無作為割付試験をまとめた統合解析

国立循環器病研究センターは11月9日、国内外の4つの無作為割付試験をまとめた統合解析を行い、従来は治療適応外とみなされていた発症時刻不明の脳梗塞患者の中から専門的な頭部画像診断基準を駆使して適切な患者を抽出し静注血栓溶解療法()を行うと、転帰改善効果が高まることを解明したと発表した。この研究は、同センターの豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長らが参加した国際研究グループによるもの。研究成果は、世界脳卒中機構・欧州脳卒中機構合同カンファレンスのプレナリーセッションで発表され、医学雑誌「Lancet」電子版に掲載されている。

脳梗塞は死因の第4位、要介護疾患の第2位を占め、概して重症で、重い後遺症を生じることが少なくない。脳梗塞に高い治療効果を示す急性期治療法として、遺伝子組み換えによる組織型プラスミノゲン・アクティベータ(tPA)を用いたtPA静注療法が有名だ。しかし、この治療は、発症後4.5時間を超えた患者には用いることができない。

脳梗塞患者の約2割は、睡眠中に発症して朝起床時に症状に気付いたり、言葉のコミュニケーションを取れなくなった状態を他者に発見されたりするなどにより、正確な発症時刻がわからないためにtPA静注療法を受けることができない。このような患者に対して、頭部画像診断を駆使しておおよその発症時刻を推測し、tPA静注療法の治療効果を確かめる臨床試験が国内外で行われ、概して良い結果を示した。国循が作成事務局を務めた2019年のtPA静注療法の指針改訂ではこれらの結果を受けて、発症時刻が不明な時でも、頭部MRI所見が定められた基準を満たす場合にはこの治療を考慮しても良いと、推奨の大きな変更を行っている。

今回、2020年初めまでに、発症時刻不明脳梗塞へのtPA静注療法に関して国内外で行われていた大型試験の結果が出そろい、その研究者らが統合解析を行った。


画像はリリースより

tPA治療で5割増の転帰改善効果

今回、解析の方法に、システマティックレビューとプール解析を採り入れた。「発症時刻不明の脳梗塞患者に対する、tPA静注療法と対照治療の無作為化比較を、専門的な頭部画像診断を用いた患者選定に基づいて行う」という条件を、4つの臨床試験が満たし、それらを研究対象論文とした。ここでの画像診断とは、頭部MRIの拡散強調画像(DWI)での早期虚血所見がFLAIR画像で明らかではない「DWI-FLAIRミスマッチ」、あるいはDWIまたはCTでの早期虚血所見とそれを含めた灌流画像での低灌流部位の差(ペナンブラ所見)が一定のサイズを超えて存在する所見を指す。前者の画像所見は脳梗塞発症後おおよそ4.5時間以内であることを、後者はtPA治療によって救済される可能性のある領域(ペナンブラ)が相当に存在することを、それぞれ示している。

今回のレビューで、欧州のWAKE-UP試験と、日本のTHAWS試験がDWI-FLAIRミスマッチを用いた試験として、豪州を中心に行われたEXTEND試験と欧州で行われたECASS-4試験がペナンブラ所見に基づく試験として選ばれ、WAKE-UP試験の研究代表者であるGötz Thomalla博士(独ハンブルグ大学)を中心に解析作業を進めた。このうちTHAWS(THrombolysis for Acute Wake-up and unclear-onset Strokes with alteplase at 0.6 mg/kg)試験は、)の研究助成を受けて、国循を中心に国内多施設共同で行われ、主解析論文はStroke誌に掲載されている。

今回、4試験を併せて843例の患者(うちtPA実薬群429例)を用いて解析。発症90日後の患者自立度について、完全自立の状態とみなされる同尺度の0または1の割合は、実薬群47%、対照群(偽薬または従来治療)39%で、年齢や初期重症度の補正した後のオッズ比1.49と、tPA治療を用いることで5割増しの転帰改善効果が得られた。その他、tPA治療が対照と比べて有効で、また安全性の群間差も許容範囲内であることが明らかになった。

DWI-FLAIRミスマッチを判断基準とした治療は、比較的手軽で現実的か

今回の統合解析によって、適切な画像診断で発症時刻不明脳梗塞の中からtPA静注療法に相応しい患者を抽出し、同治療を行うことの有用性が高く推奨されるという。MRIは国内に広く普及しており、DWI-FLAIRミスマッチを判断基準として治療を行うことは、比較的手軽で現実的だとしている。一方で、灌流画像を使って短時間で定量的に異常所見を評価する診断手段は、まだ一部の施設でしか用いられておらず、今後の普及が望まれる。

発症時刻不明脳梗塞患者にもtPA静注療法の可能性が広がったことで、この治療が国内でさらに多く実施されることが期待できる、と研究グループは述べている。

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