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新たな遺伝性再生不良性貧血症を発見-京大ほか

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2020年11月09日 PM12:30

JCRB細胞バンクの原因不明の再生不良性貧血患者サンプルを解析

京都大学は11月6日、患者サンプルのゲノム解析を発端に、今まで見逃されていた新たな遺伝性再生不良性貧血症である「/ALDH2欠損症」を発見したと発表した。この研究は、同大生命科学研究科・附属放射線生物研究センターの高田穣教授、牟安峰教務補佐員らの研究グループが、ケンブリッジ大学のグループと共同で行ったもの。研究成果は、「Molecular Cell」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

遺伝性の再生不良性貧血は、小児の重症難病で、白血病への進行も多く、その解明は医学・生命科学の重要な研究課題だ。京都大学大学院生命科学研究科・附属放射線生物研究センターの佐々木正夫前教授(現:名誉教授)は、遺伝性再生不良性貧血であるファンコニ貧血における染色体異常を1976年に発見した。その後、佐々木名誉教授は、全国の医師からの依頼で、診断のため患者細胞の染色体を観察し、サンプルを継続的に収集保存した。2003年に退官のおり、これら貴重なサンプルは、匿名化後、大阪の医薬基盤研究所のJCRB細胞バンクに寄託された。2007年、高田氏が放射線生物研究センターに着任し、JCRBの原因不明の再生不良性貧血患者サンプルの存在に気づき、どのような遺伝子異常が原因になっているのか、研究を開始した。

「ADH5/ALDH2欠損症」全7例同定、ホルマリン分解不全

旧来の方法ではなかなか成果があがらなかったが、2015年、次世代シーケンサーによるゲノム解析を行ったことで、これらの患者でADH5遺伝子とALDH2遺伝子がともに変異していることが判明した。さらに、その後、共同研究者より提供されたサンプルから、追加症例を同定し、全部で7例を同定した。症状は、生後低身長・低体重、軽度の精神発達遅延が認められ、10代で再生不良性貧血を発症し、やがて骨髄異形成症候群や白血病へ進行し、骨髄移植が必要となる。

今回の発見は、以下の理由で意外であり、かつ、意義深いものだと研究グループは考えている。

・全く新規の疾患の発見であり、従来診断不能であった病気が診断でき、的確な治療につながる
・従来知られている遺伝性再生不良性貧血はDNA修復などの欠損症だが、今回の疾患は細胞内の代謝異常が原因となっている。代謝異常による遺伝性再生不良性貧血はこれが初めての例である
・ADH5は、シックハウス症候群などで注目されるホルムアルデヒド(ホルマリン)の分解酵素。しかし、今回の病気で原因となっているホルムアルデヒドは、体内で自然に産生されたものだ。ホルムアルデヒドはDNAなどの生体分子を損傷し、毒性を示す。健康であるためには、体内で産生される毒性物質であるホルムアルデヒドを分解する必要がある
・ALDH2遺伝子は、アルコールから体内で産生されるアセトアルデヒドの分解酵素の遺伝子であり、日本人を含めた東アジア人で変異をもつ人が50%にもおよび、お酒が飲める・飲めないを決定づける有名な遺伝子だ。このように大勢が持つ変異が、まれな疾患の原因(の一部)になっていることは従来知られていない
・ALDH2は、実は、ホルムアルデヒドの分解にも重要であることが確認された
・遺伝性疾患で、2つの遺伝子異常が合わさったことで発症するものはあまりなく珍しい
・造血は、骨髄で、幹細胞から白血球、赤血球などさまざまな血液細胞を生み出すプロセス。この正常プロセスがホルムアルデヒドという毒性物質を生み出すことがこの疾患の存在から浮かび上がってきた
・ケンブリッジ大の共同研究者が、患者が存在することを知らないうちに、同じ2つの遺伝子を変異したマウスモデルを作成し、同様の症状を再現した。今回の論文にはそれも詳細に記載されている

お酒が飲めないALDH2変異と疾患リスクは今後十分な研究が必要

お酒を飲んで顔が赤くなる人は、まず確実にALDH2の変異をもっており、習慣飲酒による食道がんのリスクが高いことが知られている。だからといって、この血液疾患になるわけではなく、むしろ長生きできるという研究も発表されている。ALDH2の変異とさまざまな疾患リスクについては、まだわかっていないことが多く、今後十分な研究が必要だ。

遺伝性再生不良性貧血の原因遺伝子は、さまざまなものが知られているが、代表的かつ最も頻度の高いものが損傷DNAの修復ができない「」だ。今回見つかったADH5/ALDH2欠損症は、ファンコニ貧血そっくりの症状を示している。このことは、逆に、ファンコニ貧血の原因がホルムアルデヒドによるDNA損傷である可能性を示しており、ファンコニ貧血へのあらたな治療アプローチの可能性を示唆する。研究グループは、患者からiPS細胞を作成してこの疾患のメカニズムを解析し、現在論文投稿中だという。今後はさらに、これを使って治療薬開発を試みたいと述べている。(QLifePro編集部)

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