■医療薬学会が検討
日本医療薬学会は、慢性期医療や地域医療を担う中小病院、療養型病院の薬剤師の専門性を認定する専門薬剤師制度のあり方について検討する。2019年10月に立ち上げたワーキンググループで来年度から本格的な議論を開始し、制度の必要性や認定要件、研修の仕組みなどを話し合う計画だ。急性期病院の薬剤師が取得可能な専門薬剤師制度は多いが、中小病院や療養型病院の薬剤師を対象にした制度は少ない。中小病院向けの専門薬剤師制度が実現すれば、多くの薬剤師の励みとなる制度になりそうだ。
医療薬学会は、既存の制度を見直し、2020年1月から新たな制度設計に基づく専門薬剤師制度の運用を開始した。その一環として、新たに薬局薬剤師向けの地域薬学ケア専門薬剤師制度を設置。同制度を議論する中で、並行して中小病院薬剤師向けの専門薬剤師制度についても話し合ってきたが、議論を独立させる形で2019年10月に、専門薬剤師制度運営委員会のもとに「中小療養病床専門薬剤師制度検討ワーキンググループ」を立ち上げた。
現在は、地域薬学ケア専門薬剤師制度を軌道に乗せることに関係者の意識が集中しているため、来春以降にWGでの議論を本格化させる計画だ。慢性期医療や地域医療を担う病院薬剤師に求められる知識やスキルなど、WGメンバーで意見を交わしてあるべき姿を共有した上で、認定要件や研修の仕組みなど制度の骨格を固める。早ければ21年度中に具体的な制度を提案したい考え。
地域包括ケアシステムの整備が進み、地域で各施設や多職種と連携しながら慢性期医療を担う医療従事者の1人として、中小病院や療養型病院の薬剤師の役割が大きくなっている中で、十分な役割を果たせるよう地域医療特有の専門性を認定する制度構築を目指すことになりそうだ。
WG委員長の崔吉道氏(金沢大学病院薬剤部長)は「地域医療における様々な課題を解決するノウハウやスキル、幅広い知識が必要になる。生活の支援に関わる多職種と連携し、地域を包括するマネジメント力が必要で、既存の専門薬剤師制度とは異なる専門性が求められるのではないか」と語る。
制度を構築する上で課題となるのが研修の実施だ。慢性期患者特有の治療に対応した研修体系を構築する必要がある。数人で業務を行っている中小病院の薬剤師が自施設を留守にして研修に出向くことは難しいため、既存の制度とは異なるモデルを考える必要があるという。
全国には約8000の病院が存在するが、多くは中小病院が占めている。専門薬剤師の認定取得を希望して急性期病院を志望する新卒薬剤師は多く、十分なマンパワーを確保できないまま日常業務に取り組んでいる中小病院の薬剤師は少なくない。
中小病院や療養型病院の薬剤師向け専門制度が実現すれば、働く薬剤師のスキルや意欲の向上につながるだけでなく、マンパワーの確保にも好影響を及ぼす可能性がある。