着床障害を原因とする不妊、いまだ有効な治療は無い
慶應義塾大学は11月4日、青色LEDによる青色光の照射とゲノム編集を組み合わせることでマウスの妊娠(着床)をピンポイントに調節することに成功したと発表した。この研究は、同大医学部産婦人科学(産科)教室の丸山哲夫准教授と高尾知佳共同研究員(岡山大学助教)、東京大学の佐藤守俊教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン版に掲載されている。
体外受精などの生殖補助医療(ART)の進歩により不妊治療の成績は改善したが、着床障害を原因とする不妊にはいまだ有効な治療は無いため、近年のARTの妊娠率・生産率は頭打ちになっている。
着床は、子宮内というブラックボックスで起きている現象であり、アプローチの難しさもあって、着床の仕組みは十分には解明されていない。刻一刻と変化していく着床現象の研究と治療には、時間的にも場所的にもピンポイントで解析・コントロールする技術が必要とされる。
画像はリリースより
青色光照射とゲノム編集を組み合わせ、着床・妊娠をコントロール
今回の研究では、青色光照射とゲノム編集を組み合わせることにより、ピンポイントにマウスの着床・妊娠をコントロールすることに成功した。
雄マウスと交配させた雌マウスに、青色光を照射した時だけゲノム編集機能を発揮する光活性化Cas9(光Cas9)の遺伝子と、LIF遺伝子を標的とするシングルガイドRNA(sgRNA)を導入。交配後3.5日目にこの雌マウスの全身、主に腹部に青色光を照射すると、光Cas9のゲノム編集により子宮でのLIF遺伝子が壊されてLIFタンパクが低下し、そのために着床が起きずマウスは妊娠しなかった。
同マウスは、青色光を当てなければLIFに影響を及ぼさず普通に着床が起きて妊娠する。また、LIF遺伝子を標的としないsgRNAと光Cas9を導入した雌マウスは青色光を照射した場合でも、LIFに影響を及ぼさず通常どおりに着床が起きて妊娠するという。
さらに、青色光照射によりLIFが低下した不妊マウスの子宮に、新たにLIFタンパクを投与すると、ほぼ元通りに着床が起きて妊娠するようになった。
着床をブロックすることによる避妊、子宮内での胎児治療などの開発に期待
このように、狙った場所とタイミングで光を当てることにより、子宮内の生命物質の働きをコントロールできたことから、同システムは着床不全などの不妊症の治療、着床をブロックすることによる避妊、あるいは子宮内での胎児治療など、新しい様式の生殖治療の開発につながることが期待されるという。
また、同システムは、刻一刻と変化する着床現象において、自由自在なタイミングで光照射をして生命物質の変化を起こすことができることから、着床現象をダイナミックに解析できる研究ツールとしても有用性があると思われる、と研究グループは述べている。
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・慶應義塾大学 プレスリリース