医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 核酸医薬として期待される「SINEUP」、タンパク質合成促進の仕組みを解明-理研ほか

核酸医薬として期待される「SINEUP」、タンパク質合成促進の仕組みを解明-理研ほか

読了時間:約 3分15秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年11月04日 PM12:00

ハプロ不全による希少疾患の治療薬として期待のノンコーディングRNA

(理研)は11月2日、タンパク質合成を促進するアンチセンスRNAとして発見された機能性ノンコーディングRNA「」が、標的メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳を促進する際、SINEUP結合タンパク質とともに細胞内を移動し、翻訳開始複合体に働きかけていることを発見したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センタートランスクリプトーム研究チームの土岐直子研究パートタイマー(横浜市立大学大学院生命医科学研究科博士後期課程)、高橋葉月特別任期制研究員(同客員研究員)、ピエロ・カルニンチチームリーダー(同客員教授)らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Nucleic Acids Research」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

通常、ノンコーディングRNAはタンパク質には翻訳されず、主にDNAやRNAの発現を調節する役割を果たすと考えられている。また、ヒトゲノムの半分以上のRNAがノンコーディングRNAとして発現しているが、その大部分はどのような機能を果たしているのか解明されていない。ピエロ・カルニンチチームリーダーらは、長鎖ノンコーディングRNAの1つである「SINEUP」がタンパク質への翻訳機能を調整していることを2012年に発見し、現在までその機能について詳しく調べてきた。SINEUPは核酸医薬としての応用開発が行われている分子であり、主に疾病原因タンパク質の生産量が少ないという理由で発症する、ハプロ不全などが原因で引き起こされる希少疾患への治療応用が期待されている。

SINEUPは、内部に含まれるレトロトランスポゾンの一種であるSINEが翻訳を促進(UP)することから名付けられた。SINEUPはその一部にSINEを含んでいるが、SINE以外の部分に存在するアンチセンス領域の役割も、標的メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳機能を調節するために重要と考えられる。また、SINEは細胞核内に局在することが知られているが、翻訳は細胞質で行われるため、核から細胞質へ移動する必要がある。RNAの細胞内移動のメカニズムは、主としてRNAそれ自体が単独で動くというよりも、移動を手助けするタンパク質と複合体を形成して動くことが多く報告されている。そこで今回、国際共同研究グループは、SINEUPがいかにして細胞核から細胞質へ移動し、翻訳を促進する相手であるmRNAを見つけ出し、その翻訳に働きかけているのかを調べた。

SINEUP結合タンパク質とともに細胞内を移動し、翻訳開始複合体に働きかけていた

研究グループはまず、SINEUPと標的mRNAが細胞内のどの場所に局在するのかを、RNA FISH法を用いて調べた。その結果、SINEUPは細胞核と細胞質の両方に、標的mRNAは主に細胞質に局在していることが判明した。さらに細胞質では、SINEUPと標的mRNAが共局在していた。続いてSINEUPの機能を確認した結果、SINEUPと標的mRNAが細胞質で共局在する割合が高いほど、SINEUPは標的mRNAの翻訳を促進していることがわかった。

次に、SINEUPおよび標的mRNAに結合するタンパク質をChIRP-MS法で解析したところ、共局在している場所では、HNRNPKタンパク質とPTBP1タンパク質が結合し、複合体を形成していると判明。その複合体が核から細胞質に移動することで、SINEUPと標的mRNAが細胞質で共局在し、翻訳を促進していることが明らかになった。

さらに、PTBP1タンパク質とHNRNPKタンパク質をそれぞれ過剰発現させた条件下で、翻訳に関与するポリソーム分画を解析したところ、SINEUPが存在する細胞では、存在しない細胞に比べ、重いポリソーム分画に標的mRNAが移行していることが観察された。また、SINEUPに関しても、翻訳開始段階のポリソーム分画に存在していることが観察された。

また、HNRNPKタンパク質、PTBP1タンパク質がSINEUPのどの領域に結合しているかをeCLIP解析法で確認したところ、両タンパク質ともに、SINEUPが標的mRNAに結合するアンチセンス領域に結合していた。この結果は、「SINEUPが標的mRNAとアンチセンス領域で結合すること」だけでなく、「SINEUPが結合タンパク質ともアンチセンス領域で結合し、3者で複合体を形成すること」が翻訳を促進するためには重要という、新たな知見につながった。

抗体医薬の生産性向上や核酸医薬SINEUP開発に重要な足掛かり

SINEUPが細胞質内で、結合タンパク質とアンチセンス領域で複合体を形成し、標的mRNAの翻訳を加速している、という今回の発見は、(医薬品)として、SINEUPのアンチセンス領域をデザインする上で重要な知見につながった。

SINEUPは、大量生産が難しいとされている抗体医薬の生産を増加できる可能性を秘めている。今回得られた、HNRNPKタンパク質およびPTBP1タンパク質を細胞内で増加させるとSINEUPの効果が増加するという結果について研究グループは、「抗体医薬の生産性の向上だけでなく、今後、核酸医薬(医薬品)として、SINEUPを開発するうえで重要な足掛かりになると考えられる」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大