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統合失調症薬「クロザピン」の副作用である流涎症の原因を一部解明-北大ほか

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2020年11月02日 PM12:30

クロザピンの代謝物であるN-デスメチルクロザピン、クロザピンN-オキシドに着目

北海道大学は10月30日、統合失調症薬クロザピンの代謝物であるN-デスメチルクロザピンのムスカリン受容体を介した作用がクロザピン誘発性流涎症の一因であることを解明したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学院博士課程(当時)の石川修平氏(現 北海道大学病院精神科神経科助教)と、同大大学院薬学研究院の小林正紀准教授らの研究グループが、同大大学院医学研究院、北海道医療大学大学院歯学研究科と共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

日本の統合失調症患者の20~30%にあたる約15~25万人が、治療抵抗性統合失調症と予測されている。治療抵抗性統合失調症に対する唯一の治療薬であるクロザピンは、ガイドラインにおいてその使用が推奨されているが、日本での普及率は他国と比較して極めて低いことが知られている。この背景の一つとして、クロザピンの多種多様かつ頻度、重症度の高い副作用の存在が挙げられる。クロザピン誘発性流涎症は、白血球減少、過鎮静、てんかん発作に次いで、クロザピン中止の契機となる副作用であり、発現率が高く長期間に渡って重症度の高い症状を呈するため、クロザピン誘発性流涎症の予防・治療法の確立はクロザピン普及の一助になると期待される。

薬剤によって生じる流涎症は、コリン作動性の副作用あるいは錐体外路障害や嚥下機能障害による二次性の副作用であることが大半だ。しかし、クロザピンは抗コリン作用を有し、かつ錐体外路障害の発現率が極めて低いことから、クロザピン自体は流涎症を起こしにくい薬理学的特性をもつため、この矛盾が流涎症の発現機序の解明を困難にしていた。

そこで研究グループは、クロザピンに加え、その代謝物であるN-デスメチルクロザピン及びクロザピンN-オキシドに着目し、臨床及び基礎研究から流涎症の原因の探索を試みた。

N-デスメチルクロザピンが唾液腺のムスカリン受容体に作用し、流涎症を引き起こしている可能性

研究には、北海道大学病院においてクロザピンを服用している25人が参加。嚥下機能や流涎症・錐体外路症状の重症度から、クロザピン並びにその代謝物であるN-デスメチルクロザピン及びクロザピンN-オキシドの血液・唾液中濃度との関連性を検証した。

基礎研究では、実験動物に対してクロザピンを複数回経口投与し、その24時間後に唾液分泌量を測定した。また、唾液分泌量が最も多くなる時間帯でのクロザピンとその代謝物の血液中及び唾液腺・脳内濃度を測定した。ヒト唾液腺由来細胞を用いた研究では、唾液分泌の介在反応である細胞内Ca2+濃度の上昇を測定し、クロザピン及びその代謝物の唾液分泌亢進作用とムスカリン受容体の関連性を評価。その結果、以下のことが明らかになった。

・クロザピン誘発性流涎症の重症度は日中よりも夜間就寝中の方が有意に高い
・夜間の流涎症の重症度と血液及び唾液中のN-デスメチルクロザピン濃度は有意な相関関係を示す
(100mg/kg)の7日間反復経口投与は流涎症を引き起こす(モデル動物作成法の開発)
・クロザピン誘発性流涎症モデル動物は血液中、唾液腺内のN-デスメチルクロザピン濃度がクロザピン及びクロザピンN-オキシド濃度と比較して有意に高い
・ヒト唾液腺培養細胞に対して、N-デスメチルクロザピンのみが有意なCa2+濃度の上昇作用を示す
・N-デスメチルクロザピンの作用はムスカリン受容体遮断薬によって阻害される

これらのことから、クロザピンの代謝物の一つであるN-デスメチルクロザピンが唾液腺のムスカリン受容体に作用し、流涎症を引き起こしている可能性が示された。

新規治療法確立への貢献に期待、開発したモデル動物を臨床・基礎研究の橋渡しに

今回の研究成果により、クロザピン誘発性流涎症の原因物質や発現機序及び発現時間が解明された。これらの知見は、新規治療法確立への貢献が期待されるほか、同研究で作成したモデル動物は、臨床状況を模したモデルのため、臨床と基礎研究の橋渡しを担う存在となることが期待される。

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