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新型コロナによる自然に対する世界観と心理的健康の変化は?日米比較-山形大ほか

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2020年10月30日 AM11:15

非常事態下で、人々の自然に対する世界観、心理的健康に文化的背景は影響するか

山形大学は10月28日、新型コロナウイルス感染症の拡大状況下において、自然に対する世界観と心理的健康の関係に文化的コンテクスト(人々に暗黙裏に共有される文化的背景知識)が及ぼす影響を明らかにしたと発表した。これは、同大学術研究院大村一史教授(認知神経科学)と、米ジョージア大学、コネティカット大学およびカリフォルニア大学サンフランシスコ校との国際共同研究によるもの。研究成果は、「Personality and Individual Differences」に掲載されている。

これまでの研究から、自然に対する世界観が心理的健康にとって重要なことは示唆されてきた。しかし、大規模自然災害や感染症パンデミックなどの非常事態下においては、両者がどのように関係しているのかはよくわかっていない。また、自然に対する世界観は欧米とアジアでは異なることが指摘されてきたものの、文化差の視点から、非常事態下における自然に対する世界観と心理的健康の関係を明らかにした研究は存在しなかった。一般的に、欧米人よりもアジア人の思考は、物事の変化や矛盾に対して寛容的で、中庸をとろうとする推論の傾向(素朴弁証法的)が強いと考えられており、認知的不協和(行動や考えにおける対立や矛盾する認知によって生じる不快感)に対する感受性にも文化的な違いがあることが指摘されている。

そこで、研究グループは、新型コロナウイルス感染症拡大状況下において、自然に対する世界観と心理的関係に文化的コンテクストがどのように影響するのかを、日本と米国で検討することにした。

米国人は自然を支配しようとする世界観が強いほど、ネガティブな感情を抱きやすい

クラウドソーシングサービスを利用したオンライン調査により、日本および米国からデータを収集し、最終的に日本人381人(うち女性200人、平均年齢39.81歳)、米国人409人(うち女性174人、平均年齢47.11歳)を分析対象とした。新型コロナの個人的影響・家族の影響・経済的影響を尋ねる3項目、世界観について尋ねる12項目、自覚ストレス尺度によりストレスの自覚を尋ねる10項目、ネガティブ感情・ポジティブ感情を尋ねる12項目を使用し、それぞれのスコアを算出し、多母集団確認的因子分析および年齢と性別を共変量にした重回帰分析から変数間の関係を検討した。

その結果、新型コロナウイルス感染症拡大のような非常事態状況下で、心理的な困窮状態は、両国共にこれまでよりも大きくなっていたことがわかった。また、自然と調和する世界観は、両国共に良好な心理的状態と関係していた。一方で、日本人と比較して、米国人は自然を支配する世界観がネガティブ感情とより強く結びついていたことが明らかになった。

文化によらず、自然との調和の世界観を持つことは良好な心理的健康につながる

今回の結果は、このような非常事態状況下にあっても、文化によらず、自然と調和した世界観を持つことが心理的健康にとって良好な影響を及ぼすことを示している。自然との調和を求める世界観は、心の平穏をもたらすために人類普遍的に内在するものであり、生命や自然を好む生得的傾向があるとするバイオフィリア仮説を支持するものといえる。また、米国人は自然を支配しようとする世界観が強いほど、ネガティブな感情を抱きやすいという結果は、米国人と日本人では、物事の変化や矛盾に対する寛容さや中庸をとろうとする傾向、認知的不協和における感受性に違いがあることに基づくものと解釈されるという。

非常事態状況下にあっても、自然と調和した世界観を持つことは心理的健康を良好に保つために重要であると考えられる。「矛盾や対立を含んだ心の状態を中庸的にあるがままに受け止めようとする日本人が持つ思考は、人類が「ウィズコロナ」の新時代をたくましくかつしなやかに生き抜いていくためのヒントとなるかもしれない。さらに知見を積み重ねていくことで、新時代における心理的健康の維持・増進に役立つことが期待される」と、研究グループは述べている。

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