ウイルスごとに目標LRVの達成に必要な消毒条件を逆算できるツールを開発
東北大学は10月27日、下水処理水の消毒によるウイルス不活化効率予測モデルを、スパースモデリングおよびベイズ推定の手法を用いて構築したと発表した。これは、同大大学院環境科学研究科 佐野大輔准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Science:Water Research & Technology」に公開されている。なお、同研究は国土交通省・下水道技術研究開発(GAIA)により行われた。
画像はリリースより
感染者糞便に含まれるウイルスは、トイレから下水管を介して下水処理場へ流入する。下水処理場において、生物処理後に施される消毒処理は水中ウイルスの不活化に対しても有効とされているが、消毒強度が不十分である場合は放流水中ウイルス濃度が十分低減されず、放流水への直接・間接的曝露による感染リスクが許容レベルを超過する可能性がある。
世界保健機関(WHO)が推奨している衛生安全計画(Sanitation Safety Planning:SSP)では、下水処理に関わる健康被害リスク管理のために「危害分析重要管理点(Hazard Analysis and Critical Control Point:HACCP)」を採用しているため、SSPを下水処理水によるウイルス感染リスク管理に適用する際には、許容感染リスクをもとに消毒処理に割り当てられる目標不活化効率(log10 reduction value: LRV)を設定し、その目標LRVを達成可能な消毒強度を特定した上で、常時モニタリングすることが求められる。研究グループは、そのためにウイルスごとに目標LRVの達成に必要な消毒条件を逆算できるツールの開発が必要と考え、研究を行った。
新型コロナウイルスを日常的に管理するモデル構築も可能
研究では、下水処理水を次亜塩素酸ナトリウムで消毒する際の主な有効消毒成分となるクロラミンに着目し、消毒剤濃度等の操作条件およびpH等の水質条件を説明変数とすることで、ノロウイルス、アデノウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルスそれぞれについてのLRV予測モデルを構築した。
各変数の係数(回帰係数)は、通常の最小二乗法に罰則項(正則化項)を付加する正則化回帰を用いて推定し、3種類の正則化法の予測精度を比較した。その結果、不必要な変数をモデルから排除することのできるスパース回帰は予測精度が高く、かつ過剰適合を回避する性能を持つことが示唆された。正則化回帰のみではポリオウイルスに対するモデルは依然として予測性能が低かったため、ウイルスの遺伝子型特異的な感受性等を仮定できる階層ベイズを適用したところ、90パーセンタイル値を利用することで、特に高いLRVの予測値が観測値に近づくという示唆が得られたという。また、予測値と観測値の残渣の確率分布を用いて、各モデルの予測性能の傾向を把握し、予測値の補正を行う方法も併せて提案した。
今回の研究で開発された水中ウイルス不活化予測モデルの構築手法は、未処理下水中から遺伝子が検出されている新型コロナウイルスに対しても、消毒による減衰データを揃えることができれば適用可能だ。「下水道分野におけるSSPの導入は、下水処理水質管理のグローバルスタンダードとなっているマルチバリアシステムとの相性が良く、水ビジネスの視点からも好ましいものなので、今後の普及が望まれる」と、研究グループは述べている。
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