予後に重大な影響を与えるILD合併率、日本人はヨーロッパ系集団よりも顕著に高く
筑波大学は10月28日、特発性肺線維症(IPF)の発症リスクに関連する遺伝子TERT、DSPが、間質性肺疾患合併の有無にかかわらず、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(AAV)そのものの発症リスクに関連することが検出されたと発表した。この研究は、同大医学医療系分子遺伝疫学研究室の川﨑綾助教、土屋尚之教授ら国内多施設共同研究グループによるもの。研究成果は、「Arthritis Research & Therapy」に掲載されている。
指定難病であるAAVは、急速進行性糸球体腎炎、間質性肺疾患、肺出血などを主な症状とする全身性小型血管炎。血液検査で、白血球の一種である好中球の細胞質に対する自己抗体(抗好中球細胞質抗体、ANCA)が検出されることが特徴だ。
臨床症状により、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)に分類される。さらに、検出されるANCAの種類により、MPO(myeloperoxidase)-ANCA陽性群(MPO-AAV)、PR3(proteinase 3)-ANCA陽性群(PR3-AAV)の2群に分類される。MPO-AAVには、MPAの大部分とGPA、EGPAの一部が含まれる。
厚生労働科学研究費「難治性血管炎に関する調査研究」班(JPVAS)を中心とする研究により、予後に重大な影響を与える間質性肺疾患(ILD)の合併率が、日本人集団はヨーロッパ系集団よりも顕著に高い特徴が認められている。
画像はリリースより
MUC5B以外の、第2、第3のILD合併関連遺伝子は?
研究グループは、ILDが単独で起こるIPFの発症リスクに関連するMUC5B遺伝子の発現に影響する一塩基多型(SNP) rs35705950のTアリルが、AAVのILD合併の有無に強く関連することを報告。しかし、このアリルの頻度は日本人集団においてヨーロッパ系集団よりも顕著に低く、MUC5BのみではILD合併が日本人に多いことを説明することができない。
そこで今回の研究では、第2、第3のILD合併関連遺伝子を見つけるため、MUC5Bと同様にIPFのリスクに関連することが知られている、テロメラーゼ逆転写酵素をコードするTERT遺伝子のイントロンに位置するSNP rs2736100Aアリル、細胞間接着に重要な構造であるデスモソームの構成要素であるデスモプラキンをコードするDSP遺伝子のイントロンに位置するSNP rs2076295GアリルとAAV、ILD合併との関連を検討した。
TERT、DSP遺伝子のIPF関連SNP、MPAとMPO-AAV自体の疾患感受性に関連
今回、研究グループは、JPVASおよび進行性腎障害に関する調査研究班に参加する施設、東京医科歯科大学や筑波大学を中心とする研究協力体制を通じて研究に参加した544人のAAV患者と785人の健常対照者を対象に遺伝型を解析。また、東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)が公開している日本人多層オミックス参照パネル(jMorp)に含まれる日本人集団4,773人(4.7KJPN)のデータも対照として含めた。
まず、AAVの各サブセット(MPA、GPA、EGPA、MPO-AAV、PR3-AAV)と健常対照群を比較したところ(case-control analysis)、いずれのSNPにおいても、MPAおよびMPO-AAVと健常対照群の間にアリル頻度の有意な差が認められた。リスクアリルはいずれもIPFのリスクアリルと同じだったという。
次に、MPO-AAV群において、ILD合併群と非合併群を比較したところ(case-case analysis)、いずれのSNPにおいても、アリル頻度に有意差は認められなかった。
以上の結果から、TERT遺伝子とDSP遺伝子のIPF関連SNPは、予想に反し、AAV群におけるILD合併ではなく、MPAおよびMPO-AAV自体の疾患感受性に関連することが示唆された。
AAVとIPFの病態形成機構の共通性、遺伝子の視点から支持
いずれの遺伝子も、これまでAAVとの関連が解析されたことはない。ヨーロッパ系集団におけるAAVのゲノムワイド関連研究でも関連は報告されておらず、今回の研究による新知見だという。
IPF患者の一部では、MPO-ANCAが陽性であり、血管炎症状が出現することが知られていることから、今回の知見は、AAVとIPFの病態形成機構に共通性があることを、遺伝子の視点から支持するデータと位置づけることができるとしている。
AAVや合併するILDへの分子標的やバイオマーカー開発に期待
ERTのリスクアリルは、TERTの発現低下とテロメア長の短縮に関連し、DSPのリスクアリルは、デスモプラキンの発現低下に関連すると報告されている。これらの遺伝子多型と病態を連結する分子機構や、AAVや関節リウマチ(RA)患者群の中でのILD合併の有無に関連するMUC5B多型との役割の違いの解明が、現在注目されている、IPFとAAVの関係性についての分子レベルでの回答を与えるという。また、AAVやそれに合併するILDに対する分子標的やバイオマーカーの開発に寄与すると期待される、と研究グループは述べている。
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