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骨髄移植後のGVHDによる皮膚病変、ランゲルハンス細胞が進展を抑制-筑波大ほか

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2020年10月28日 PM12:30

皮膚ランゲルハンス細胞が移植片対宿主病の成立に必須という説は正しい?

筑波大学は10月27日、骨髄移植によって惹起する全身性の移植片対宿主病モデルマウスに加え、皮膚粘膜に移植片対宿主病を発症させたモデルマウスを用いて、皮膚病変におけるランゲルハンス細胞の機能を解析した結果、疾患惹起時にあらかじめランゲルハンス細胞を除去したマウスでは、より重度の皮膚粘膜病変を生じること、さらに、生体外での実験系にて、ランゲルハンス細胞が直接、拒絶反応を引き起こす病原性細胞傷害性CD8 T細胞の増殖を抑制し、そのアポトーシス(細胞死)を誘導することから、ランゲルハンス細胞は、皮膚のいわばゲートキーパーとして、移植片対宿主病の進展を抑制する方向に働いていることがわかったと発表した。この研究は、同大医学医療系の沖山奈緒子講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Investigative Dermatology」に掲載されている。


画像はリリースより

移植片対宿主病は、血液悪性疾患に対する治療として行われる同種異系骨髄移植の副作用として、ドナー骨髄細胞が、異なる主要組織適合遺伝子複合体(Major histocompatibility complex, MHC)を持つレシピエント臓器組織を非自己と認識して攻撃することで起こる。その対象臓器は主に皮膚粘膜、肝臓、腸管で、特に皮膚粘膜ではびらん化する丘疹・紅斑が生じ、表皮に多数のアポトーシスが観察される、苔癬反応(Interface dermatitis)と呼ばれる病理組織像を呈する。これは、ドナー由来の細胞傷害性CD8 T細胞の炎症によるものと考えられる。

一方、ランゲルハンス細胞は、樹状細胞と同様の抗原提示能を持つ表皮常在細胞だ。一般に、炎症性皮膚疾患になるとランゲルハンス細胞は増加する。移植片対宿主病では、骨髄移植前に行われる放射線処理によって、多くの血球由来細胞は除去され、移植によってドナー由来細胞に置き換わる中、ランゲルハンス細胞は放射線抵抗性であるためにレシピエント由来のまま残る。そのため、移植片対宿主病が起こると、ドナー細胞に攻撃されて消失し、その後でドナー由来細胞がランゲルハンス細胞を再形成する。移植片対宿主病の病態におけるランゲルハンス細胞の機能については、レシピエント抗原を提示する作用を持ち、移植片対宿主病の成立に必須であるという説もあるが、必須でないという報告もある。また、他の炎症性皮膚疾患、例えば接触過敏反応においても、ランゲルハンス細胞は免疫を惹起する、免疫を抑制する、有意な関与はないといったように、それぞれ相反する説が出されており、皮膚免疫学における一つの命題となっている。

マウス実験で宿主ランゲルハンス細胞が移植後皮膚病変を抑制

研究グループは今回、骨髄移植によって惹起する全身性の移植片対宿主病モデルマウスに加え、皮膚粘膜に移植片対宿主病を発症させたモデルマウスを用いて、皮膚病変におけるランゲルハンス細胞の機能を調べた。まず、ヒト疾患と同様のMHCミスマッチ骨髄移植マウスを解析。ランゲルハンス細胞特異的マーカーLangerinにジフテリア毒素受容体を遺伝子導入したマウス(Langerin-DTR Tgマウス)を用い、ジフテリア毒素投与によってランゲルハンス細胞をあらかじめ除去したレシピエントマウスと、その対照として、ランゲルハンス細胞を残したレシピエントマウスを用意し、放射線照射後骨髄移植を行った。その結果、ランゲルハンス細胞除去マウスでは、対照マウスより重症の皮膚症状を呈した。これにより、ランゲルハンス細胞は、疾患抑制的機能を持つことが示唆された。

次に、表皮角化細胞に特異的抗原を遺伝子導入して発現させ、特異的T細胞受容体を持つCD8 T細胞を移入することで惹起する、皮膚粘膜移植片対宿主病のモデルマウス(OT-I細胞移入ケラチン14プロモーター下卵白アルブミントランスジェニックマウス、OT-I cell-transferred K14-mOVA Tgマウス)を用いて、より詳細に機構を解析した。このモデルマウスでも、レシピエントK14-mOVA Tgマウスはランゲルハンス細胞のみにジフテリア毒素受容体を発現させるように操作し、ジフテリア毒素投与によってランゲルハンス細胞をあらかじめ除去したレシピエントマウスと、ランゲルハンス細胞を残したレシピエントマウスを用意して、OT-I細胞移植を行った。その結果、ランゲルハンス細胞を欠くレシピエントマウスで、より重症の移植片対宿主病様皮膚粘膜症状が見られた。またこの時、皮膚に浸潤しているCD8 T細胞数が多い、すなわち、アポトーシスに陥っているCD8 T細胞数が少ないことがわかった。

-H3やB7-H4を介して病原性CD8 T細胞の増殖抑制、アポトーシス誘導

このようなランゲルハンス細胞の炎症抑制性作用の機構を突き止めるため、OT-I T細胞を特異的抗原で刺激して活性化する細胞培養実験系に、表皮から採取したランゲルハンス細胞を加えたところ、樹状細胞や脾臓細胞を加えた場合と比べて、 T細胞の増殖が抑えられ、アポトーシスがより多く誘導されていた。さらに、ランゲルハンス細胞が発現しうるさまざまな抑制性分子やアポトーシス誘導分子の遮断抗体を加えると、共刺激分子B7ファミリーのB7-H3やB7-H4の遮断抗体で、ランゲルハンス細胞によるCD8 T細胞のアポトーシス誘導が抑制された。そこで、モデルマウスにB7-H3やB7-H4の遮断抗体を投与したところ、同様に、移植片対宿主病様皮膚粘膜病変の悪化を観察した。

以上のことから、皮膚粘膜移植片対宿主病においては、ランゲルハンス細胞は、皮膚に浸潤してきた病原性CD8 T細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導を行うことによって、むしろ病変抑制性に働いていること、また、その機構の一部は、共刺激分子B7-H3やB7-H4を介していることが示唆された。つまり、ランゲルハンス細胞はゲートキーパーとして移植片対宿主病の発症を抑制するが、それが破綻してドナー細胞によってランゲルハンス細胞が除去されると、病態が進展してしまうと考えられた。

今回の研究成果は、皮膚免疫学の命題の一つである、ランゲルハンス細胞の機能に対して、これまでの常識を一新するもの。また、移植片対宿主病において、ランゲルハンス細胞の消失が病態に与える影響が、明らかになった。研究グループは、「臨床応用に向けては、移植片対宿主病反応を抑制するために、ランゲルハンス細胞を保持する技術、もしくはランゲルハンス細胞上の共刺激分子B7-H3やB7-H4の発現を増強する技術が必要となり、さらなる研究の発展が望まれる」と、述べている。

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