画像所見から膀胱がんの筋層浸潤リスクをスコア化する「VI-RADS」
杏林大学は10月20日、次世代高分解能MRIを用いて膀胱がんの筋層浸潤診断(VI-RADS)を前向きに検証し、人工知能によるノイズ除去再構成技術の有用性を検討した結果を発表した。この研究は、同大泌尿器科学教室と放射線科学教室が共同研究として行ったもの。研究成果は、「The Journal of Urology」に掲載されている。
膀胱がんは比較的頻度の高いがんであり、年齢調整罹患率では全世界の男性の7位、女性の9位にランクしている。初発時の患者のうち、75%は筋層非浸潤がん、25%は筋層浸潤がんであり、後者は膀胱全摘を含めた集学的治療が必要となることから、両者の鑑別は臨床上非常に重要だ。膀胱がんの初期治療としては、内視鏡手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術、TURBT)がルーチンで行われる。これにより、筋層浸潤の有無を病理学的に診断して病期診断(ステージング)を行うととともに、筋層非浸潤がんの場合は同時に根治治療にもなり得る。一方、TURBTの欠点として過小診断率の高さが挙げられ、初回TURBT後に正確な病期診断のために再度のTURBTがしばしば行われる。これにより、根治治療の遅れや、医療コストの増大につながることが指摘されている。以上のことから、膀胱がんの初回手術前に、画像診断などで正確に病期診断を行う方法の開発が強く求められてきた。
近年MRIの撮像プロトコールと報告方法を標準化しようという試みが盛んであり、前立腺がんのProstate Imaging-Reporting And Data System(PI-RADS)や乳がんのBreast Imaging-Reporting And Data System(BI-RADS)などが報告されている。これらにならって、膀胱がんの深達度診断法としてVesical Imaging-Reporting And Data System(VI-RADS)が2018年に提唱された。VI-RADSは、膀胱造影MRIのT2強調画像、dynamic contrast-enhanced(DCE)画像、拡散強調画像、などの所見に基づき、膀胱がんの筋層浸潤リスクを5段階のスコア(VI-RADS 1-5:数値が大きいほど筋層浸潤の可能性が高い)で分類する試みだ。すでに世界中で検証研究が行われ、その有用性と完成度の高さが急速に認知されつつあるが、その前向き検証はほとんど行われていなかった。
前向き検証で高い精度を確認、AIによるノイズ除去再構成でさらに精度向上
今回、研究グループは、同大が有する、高い最大傾斜磁場強度を持つ次世代高分解能MRI「Vantage Galan 3T/ZGO」(キヤノンメディカルシステムズ)を用いてVI-RADSの前向き検証を行った。このMRIには、人工知能によるノイズ除去再構成(denoising deep learning reconstruction)の機能が搭載されており、その有用性についても検討した。2019年1月~2020年4月にVantage Galan 3T/ZGOによる膀胱MRIを行った98例を前向きに集積し、最終的にTURBTで尿路上皮がんの病理診断が得られた68例を対象に解析を実施。放射線科専門医の画像評価によりVI-RADSスコア(1~5点)を決定した。また、ノイズ除去再構成画像に基づいたVI-RADSスコアも別途算出した。
術後病理診断では18例(26%)に筋層浸潤を認めた。「VI-RADSスコア≧4点」をカットオフ値とした場合、筋層浸潤の予測性能は、感度89%、特異度96%、正確度94%、AUC 0.92と非常に高い値だった。興味深いことに、VI-RADSスコアと病理診断が食い違った4例のうち、ノイズ除去再構成画像に基づく評価では3例で正しく診断していた。以上より、次世代高分解能MRIを用いた前向き検証において、VI-RADSは極めて高い精度で膀胱がんの筋層浸潤を予測した。また、人工知能によるノイズ除去再構成技術により、診断能のさらなる向上が期待された。研究グループは、「今回の研究で示された、VI-RADSによる膀胱がんの正確な術前診断により、手術の安全性や治療成績の向上が期待される」と、述べている。
▼関連リンク
・杏林大学 医学部研究成果