SGLT2阻害薬により赤血球産生が促進、長期的効果を検証
金沢大学は10月22日、2型糖尿病治療薬のカナグリフロジンに、慢性腎臓病を伴う2型糖尿病患者において、貧血の発症および進行の抑制効果があることを明らかにしたと発表した。これは、同大附属病院検査部の大島恵医員(腎臓内科医師)、和田隆志理事(研究当時:金沢大学医薬保健研究域医学系教授)、オーストラリア・シドニーのジョージ国際保健研究所のHiddo JL Heerspink教授、Vlado Perkovic教授らの国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「The Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載されている。
画像はリリースより
糖尿病性腎臓病患者において頻度の高い合併症である貧血は、腎不全および心血管疾患の危険因子として知られている。同大の和田研究グループはこれまでに、日本の糖尿病性腎臓病患者における貧血管理の重要性を指摘してきた。一方、日本学術振興会「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」を通じて、オーストラリアのジョージ国際保健研究所に本学の大島恵医員らを派遣し、これまでさまざまな国際共同研究を行ってきた。糖尿病性腎臓病における貧血の臨床的重要性の国際比較も課題の一つとして位置付けられてきた。
2型糖尿病治療薬のナトリウム・グルコース共役輸送体(SGLT2)阻害薬は、近位尿細管に存在するSGLT2の働きを阻害することにより尿細管での糖再吸収を抑制し、尿糖排泄量を増加させる。近年の大規模臨床試験の結果から、SGLT2阻害薬の腎臓病および心血管疾患の進行抑制効果が認められている。また、SGLT2阻害薬により血液中のヘモグロビン値およびエリスロポエチン値が上昇し、赤血球産生の促進効果が認められている。しかし、これまでSGLT2阻害薬の長期的な貧血に関する効果について不明だった。
観察期間中央値2.6年間、カナグリフロジン群で血中ヘモグロビン値0.71g/dL上昇
研究グループは、糖尿病性腎臓病患者におけるSGLT2阻害薬の長期的な貧血の発症および進行に対する効果を検討するため、慢性腎臓病を合併する2型糖尿病患者4,401人を対象としSGLT2阻害薬カナグリフロジンの腎保護効果を検討した多施設共同ランダム化比較試験であるCREDENCE試験のデータを用いて、事後解析を行った。
まず、血中ヘモグロビン値およびヘマトクリット値に対するカナグリフロジンの効果を評価した。その結果、観察期間中央値2.6年間で、カナグリフロジン群は、プラセボ群に比べてヘモグロビン値が0.71g/dL(95%信頼区間 0.64〜0.78g/dL)、ヘマトクリット値が2.4%(95%信頼区間 2.2〜2.6%)上昇したことが明らかとなった。これらの上昇はSGLT2阻害薬の尿量増加作用による脱水に伴う血液濃縮の結果と解釈することもできるが、他の血液濃縮の指標である血液中の総蛋白値およびアルブミン値と変化率を比べても、ヘモグロビン値やヘマトクリット値、赤血球数の上昇率は高値だった。以上より、SGLT2阻害薬は血液濃縮だけでなく赤血球数を増加させる作用を持つことが示唆された。
性別や年齢にかかわらずカナグリフロジン群で貧血発症42%抑制
次に、貧血の発症および進行に関するエンドポイントとして、治験医師により有害事象として報告された貧血の発症に加え、鉄剤やエリスロポエチン製剤、もしくは輸血といった貧血への治療介入を含めた複合エンドポイントを設定し、カナグリフロジンの効果を検討した。観察期間中、573例に貧血関連の複合エンドポイントを認め、そのうち358例に貧血の発症を認め、343例が鉄剤、141例がエリスロポエチン製剤の投与を開始し、114例に輸血が行われた。
カナグリフロジン群では、プラセボ群と比べて貧血関連の複合エンドポイントが35%抑制された(ハザード比 0.65、95%信頼区間0.55〜0.77、P値<0.0001)。各エンドポイントにおいても、カナグリフロジンは貧血の発症を42%(ハザード比 0.58、95%信頼区間 0.47〜0.72、P値<0.0001)、鉄剤投与の開始を36%(ハザード比 0.64、95%信頼区間 0.52〜0.80、P値<0.0001)、エリスロポエチン製剤投与の開始を35%(ハザード比 0.65、95%信頼区間 0.46〜0.91、P値=0.012)抑制することが明らかとなった。この貧血関連の複合エンドポイントに対する効果については、年齢や性別、腎機能などの患者の背景因子で分けた層別解析においても同様の結果が認められた。
これらの結果により、カナグリフロジンが慢性腎臓病を有する2型糖尿病患者において貧血の発症および進行の抑制に関与することが示唆された。「将来、カナグリフロジンが糖尿病性腎臓病患者の貧血に対する治療戦略に応用されることが期待される」と、研究グループは述べている。
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