全国19施設で咽頭・食道・胃の腫瘍性病変の拾い上げにLCIが有用かを検証
東京医科歯科大学は10月20日、上部消化管での腫瘍性病変を拾い上げについて、富士フイルム株式会社が新規に開発した画像強調機能 Linked Color Imaging(LCI)は、従来法(White light Imaging:WLI)に比べ、有意に多くの早期腫瘍性病変を拾い上げたことが全国19施設による多施設共同研究から明らかになったと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化管外科分野の川田研郎講師、北海道大学病院消化器内科の小野尚子講師、京都府立医科大学消化器内科の土肥統学内講師らの研究グループが、全国19の施設(研究代表者:国立函館病院の加藤元嗣院長)と共同で行ったもの。研究成果は、「Annals of Internal Medicine」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
上部消化管内視鏡検査においては胃、食道、咽頭などの腫瘍性病変を早期に発見することが最大の目的であるが、従来法による内視鏡検査では一定の見落としが生じることが明らかとなっている。近年、この問題を解決するために、がんを見つけやすくする内視鏡診断技術(画像強調内視鏡)が開発され、上部消化管領域においてさまざまな臨床研究が行われている。咽頭食道領域においては、狭帯域イメージングNarrow Band Imaging(NBI)が従来法よりもがんの拾い上げ診断に有用であったとの報告があり、胃領域においては、Blue Laser Imaging-bright(BLI-bright)が従来法よりも有用であったことが報告されている。
富士フイルムは新たに画像強調機能LCIを開発した。このシステムは、レーザー光を診断に応用した技術で、赤みを帯びている色はより赤く、白っぽい色はより白くなるように観察できるため、腫瘍と正常部分のわずかな色の差をより分かりやすくする方法である。これまで上部消化管領域においてLCIの有用性の報告が散見されているが、腫瘍性病変の拾い上げに関する大規模な前向きの臨床研究の報告はなかった。そこで今回研究グループは、全国19施設(16の大学病院と3つのがん専門施設)において咽頭・食道・胃の上部消化管を対象とし、LCIの腫瘍性病変の拾い上げ機能を、従来法WLIと比較するランダム化比較研究を実施した。
腫瘍性病変の診断患者数割合、見落とし率、確信度などを調査
20歳以上89歳までの消化管がんの既往または現在保有している患者に早期腫瘍性病変拾い上げのための上部消化管内視鏡スクリーニングを行った。認知症や意識障害のために自身で意思を表明できない、検査に協力が得られない、同意の得られない、組織採取のための生検ができないといった人を除外し、各施設の倫理審査委員会の承認を経て行った。試験開始前に臨床試験登録システムに登録した(UMIN000023863)。2群の割り付けは、施設、年齢(70歳以上か未満か)、担がん者か既往者か、術後の患者かどうかの4つの点で両群に偏りがでないようにコンピューターを用いて自動的に行われた。
検査手順は咽頭、食道、胃の各部位ごとに従来法で観察した後、LCIで見直す方法と、その逆の観察を行う。各部位ごとに各観察モードで発見した病変の部位、形、大きさ、腫瘍か非腫瘍かの確信度(高いか低いか)などを記録し、さらに観察に要した時間を計測した。拾い上げた病変は生検にて組織を採取し、必要に応じて治療が行われた。臨床病理組織学的情報はデーターセンターにて収集し統計学的解析を行った。主要な解析項目は従来法とLCI法のそれぞれの咽頭・食道・胃の腫瘍性病変の診断患者数割合とし、副次的に各モードの見落とし率、確信度(腫瘍か非腫瘍かの診断が高いか低いか)、病変の大きさ、形、部位の比較、有害事象、検査時間等について解析した。
LCI群8%、従来法WLI群4.8%と有意に高い発見率
2016年11月から2018年7月までに1,508人に参加を呼びかけ1,504人から同意を得た。従来法WLIに753人、LCI法に751人を振り分けた。それぞれ1人ずつが検査継続困難で中止となり、最終的には従来法WLIで752人、LCI法で750人を解析した。その結果、両群間に年齢、性別、手術既往の有無、担がんか否かで差を認めなかった。腫瘍性病変患者発見割合はLCI法で750人中60人(66病変、8.0%)に対し、従来法WLIは752人中36人(37病変、4.8%)であり、LCI群が有意に高い発見率を示した(P=0.011、相対発見比1.67(95%信頼区間1.12-2.50)。
また各群で前観察と後観察を合わせた総合の診断数割合は、LCI法で65人71病変、従来法WLIで60人63病変であり、有意差を認めなかった。見落とし率は、LCI法で71病変中5病変(7.04%)であるのに対し、従来法WLIでは63病変中26病変(41.3%)と、LCI法の見落としが有意に低かった(P<0.001)。両群とも大きな有害事象はなかった。確信度別では、従来法WLIでは腫瘍性病変を強く疑う割合が54.1%だったのに対し、LCI群では86.4%と有意に高かった。検査時間は従来法よりもLCIで10数秒長かったものの、腫瘍性病変の拾い上げのためには許容できる範囲と考えられるという。
専門医だけでなく、一般の内視鏡医にもLCIが応用可能か今後検証
これまでに臨床応用されてきた画像強調法の一つであるNBIは、咽頭食道領域の腫瘍の拾い上げに有用であると報告されているが、胃の腫瘍性病変の拾い上げに有用という報告はなかった。NBIと異なり、LCIは遠景から明るい画像強調が可能であり、これまで胃炎の診断や胃がんの拾い上げに有用と報告されているが、今回LCIを用いて初めて多施設共同前向き研究を行い、胃、食道、咽頭における早期腫瘍性病変の拾い上げに関する有用性が証明された。日本で開発されたこの診断技術が世界に広まることで上部消化管領域の早期腫瘍性病変の見落としが減り、さらに軽い負担での治療ができれば胃・食道・咽頭がん患者の予後向上にグローバルに大きく貢献できる可能性がある。「今回はエキスパートの内視鏡医においてLCIの有用性が証明されたが、今後は一般の内視鏡医にも応用可能かさらなる検証が必要である。今後もLCIの活用が大いに期待される」と、研究グループは述べている。
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