新型コロナの遺伝子変異、ウラシルへの点変異が突出して多く
東北大学は10月21日、新型コロナウイルスの遺伝子変異は、ウラシル(U)への点変異が突出して多いことを発見したと発表した。この研究は、同大加齢医学研究所生体防御学分野の西井慧美助教、薬学研究科小菅将斗大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports(電子版)」に掲載されている。
新型コロナウイルス感染症は世界に蔓延しており、重症肺炎が引き起こされることが報告されている。自然免疫系において、Toll like Receptor(TLR)と呼ばれるパターン認識受容体は、ウイルスRNAを認識することが知られているが、新型コロナウイルス感染において、TLRの関与はよくわかっていない。また、ウイルスには変異型が存在することも報告されているが、新型コロナウイルスの変異の特徴については不明だ。
コロナウイルスは、RNAウイルスに分類され、RNA校正酵素(RNA proofreading enzymes)をゲノム内に持っている。新型コロナウイルスにおいても、RNA校正酵素を持っていることが確認された。そのため、遺伝子変異の頻度は少ないと考えられるが、A型、B型、C型に分類されるように遺伝子変異が起こることが報告されている。
画像はリリースより
ウイルス型7,804種類のゲノムの塩基配列を集めて、遺伝子変異を解析
今回研究グループは、発生初期に検出された武漢型のウイルスゲノムをもとに、世界に蔓延しているウイルス型7,804種類のゲノムの塩基配列を集めて、系統樹を作成してその遺伝子変異について解析。新型コロナウイルスの遺伝子変異には特徴があり、点変異が多いこと、点変異の中でもUへの変異が3,500回以上と突出して多く、遺伝子変異には塩基の偏りがあった。
また、どの塩基からの変異が多いのかを検討したところ、シトシン(C)からUへの変異が多いこと、そして、変異部位の領域には塩基配列に特徴があった。この遺伝子変異の特徴は、APOBECやADARなどのRNA編集酵素が作用した時の変異と一致していたという。特に、APOBECファミリーの場合と同様であり、これらの塩基配列特異的な遺伝子変異は、RNA編集酵素の関与を示す証拠となっている。
日本型などの変異部位、武漢型に比べTNF-α、IL-6の産生の増強が顕著
新型コロナウイルスの変異型においてU塩基が増加していたことから、研究グループは、これら多くの変異型の中から代表的な4つの型のゲノムを選んで解析。日本型、ジョージア型、フランス型、オーストラリア型のウイルスゲノムを、初期型と考えられる武漢型のウイルスゲノムと比較した。
それぞれのゲノムRNA塩基配列から、Uへの変異部位を含むRNAの一部を人工合成。これら人工合成RNAを、ヒトマクロファージ細胞株THP-1細胞の細胞内に取り込ませることにより、ウイルス疑似感染モデルを構築した。その結果、ウイルス疑似感染モデルにおいて、炎症性サイトカインであるTNF-α、IL-6の産生はUが含まれないRNAではあまり産生されなかった。
武漢型RNAと変異型RNAの比較において、ジョージア型の変異部位配列は、それに対応する武漢型配列でも高い産生を認め、武漢型とジョージア型で有意差を認めなかった。一方、日本型、フランス型、オーストラリア型の変異部位においては、変異型RNAが、武漢型に比べTNF-α、IL-6の産生の増強が顕著だったという。また、これらRNAは、主にTLR7を介してサイトカイン産生を誘導していることも明らかとなった。
感染による症状の差異、ウイルス変異で分類できる可能性
RNA編集酵素は、新型コロナウイルスゲノム中には存在せず、ヒト細胞中に存在することが明らかとなっている。このことから、新型コロナウイルスのゲノム変異は、ヒト由来の酵素によって起こっていると考えられる。新型コロナウイルスは、感染後にヒト生体防御機構による排除の選択圧を受けることで、ゲノムに変異を入れて変化し続けていると考えられた。
今回の研究により、新型コロナウイルスの変異は偏っており、ウラシル変異が多いこと、ウラシル変異が重なることで変異型において、自然免疫を担う炎症性サイトカイン産生が高まることが判明した。これらのことは、感染による症状の差異が、ウイルス変異により分類できる可能性を示し、また、ウイルスの型が異なる海外ワクチンについては、ワクチンの効果を確認する必要性があることを示しているという。
今回、新型コロナウイルスの進化の過程の一端が明らかとなり、同研究成果は、新型コロナウイルスの起源や進化を追究するための一助になるものと考えられる、と研究グループは述べている。
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