他の抗HIV薬との併用療法によるHIV-1感染症治療薬などとして開発中のIslatravir
米メルク社は10月8日、抗HIV薬による治療経験がない成人HIV-1感染症患者を対象に経口のヌクレオシド系逆転写酵素トランスロケーション阻害剤(NRTTI)であるIslatravir(MK-8591)をドラビリン(製品名:PIFELTRO(TM))と併用投与した際の有効性および安全性を評価する後期第2相試験(NCT03272347)の96週時のデータを発表した。さらに、週1回経口投与の抗HIV薬として開発中のNNRTIであるMK-8507の第1相/後期第1相試験の結果、並びに、同剤の抗ウイルス効果と薬物動態に基づき、週1回経口投与の抗レトロウイルス併用療法としての本剤の開発を進めることを発表した。この解析結果は、2020年International Congress on Drug Therapy in HIV Infection(HIV Glasgow 2020)のオンライン学会の口演およびポスターで発表された。
Islatravirは、他の抗HIV薬との併用療法によるHIV-1感染症治療薬として、また単剤でHIV-1感染予防の曝露前予防内服(PrEP)として、様々な剤形で臨床試験を実施しているNRTTIだ。
今回発表された、後期第2相試験における96週時の有効性と安全性のデータでは、抗HIV薬による治療経験のない成人HIV-1感染症患者を、Islatravir 0.25mg(n=29)、0.75mg(n=30)または2.25mg(n=31)をドラビリン(100mg)およびラミブジン(300mg)と併用投与する群と、DELSTRIGOを投与する群(n=31)の4つの投与群(いずれも1日1回経口投与)に1:1:1:1の割合で無作為に割り付けた。
24週間以上投与した後、Islatravir投与群で治験実施計画書に定義したウイルス学的治療失敗(PDVF)の基準に合致することなく、HIV-1 RNA量50copies/mL未満を達成した被験者は、ラミブジンを除き、同用量のIslatravirとドラビリン(100mg)の2剤レジメンに移行。96週時のIslatravirとドラビリンの併用投与群では、いずれの投与量でもウイルス学的抑制(HIV-1 RNA量が50copies/mL未満の被験者数で評価)を維持した。
ウイルス学的抑制が認められ、48週時と一貫した結果に
96週時のIslatravir 0.25mg投与群では86.2%(29例中25例)、0.75mg投与群では90.0%(30例中27例)、2.25mg投与群では67.7%(31例中21例)の被験者がHIV-1 RNA量50copies/mL未満を維持。Islatravir投与群全体では81.1%(90例中73例)であったのに対し、DELSTRIGO投与群では80.6%(31例中25例)だった。Islatravir 2.25mg投与群で奏効率が数値的に低いのは、48週時までの投与中止が主な原因だった。Islatravirとドラビリンの併用療法によりウイルス学的抑制が認められ、48週時の結果と一貫していたとしている。
96週時の副作用は、Islatravir投与群では7.8%となり、DELSTRIGO投与群の22.6%より低くなった。48週時から96週時までに新たな重篤な副作用は報告されなかった。これらの結果を踏まえ、Islatravir 0.75mgを用いて更なる臨床開発を進めていくとしている。
96週時PDVF割合は低く
Islatravirとドラビリンの2剤レジメンの96週時PDVFの解析では、PDVFの割合は低く、PDVFにより治療を中止したすべての被験者のHIV-1 RNA量は80copies/mL未満であり、臨床的意義のある200copies/mLを下回っていたことが示された。耐性検査の実施基準(HIV-1 RNA量が400copies/mLを超える)に合致した被験者はいなかった。PDVFは、HIV-1 RNA量が抑制された後に50copies/mL以上のHIV-1 RNA量が確認されるリバウンド、またはHIV-1 RNA量が50copies/mL以上の効果不十分と定義された。
96週時において合計7人の被験者がPDVFの定義に該当し、治験を中止。すでに報告されているとおり、48週時においてPDVFは6人の被検者で認められている。内訳は、Islatravir投与群全体の5.6%(90例中5例、リバウンド4例、効果不十分1例)、DELSTRIGO投与群の3.2%(31例中リバウンドが1例)だった。新たにPDVFにより治療を中止したのはIslatravir 2.25mg投与群の1例(リバウンド)だった。いずれの投与群でも耐性検査の実施基準に合致した被検者はなく、PDVFに該当したすべての被験者のHIV-1 RNA量は80copies/mL未満だった。42日間のフォローアップ期間中、PDVFにより治療を中止した7人中3人の被験者で、新しいレジメンに切り替えた後も低レベルのウイルス血症が継続した。
腎臓への安全性の懸念は認められず
96週時の探索的解析では、腎臓に対する安全性の懸念は認められなかった。1日目、48週時、96週時を含め、各来院時に血清クレアチニン値を測定。推算糸球体濾過量(eGFR)はModification of Diet in Renal Disease(MDRD)式により算出した。血清クレアチニン値とeGFRの変化量の中央値は、すべての治療群で48週時と96週時で最小値だった。Islatravir0.25mgを投与した2人の被験者に血清クレアチニン値のベースラインから0.5mg/dL以上の単発的な増加が認められたが、次の来院日までには回復。このうち1例は16週時(1.7mg/dL)、もう1例は60週時(1.7mg/dL)および84週時(1.9mg/dL)で認められた。
また、血清クレアチニン値が1.0mg/dL以上増加または倍増した被験者はいなかった。eGFRがベースラインから30%を超えて低下した被験者はIslatravir投与群では12%(90例中11例)、DELSTRIGO投与群では16%(31例中5例)で、それらのほとんどの症例は一過性のものだった。
eGFRが60mL/min/1.73m2未満となった症例がIslatravir投与群の4%(90例中4例)に認められたが、3例は一過性のものだった(もう1例はベースラインから96週時までeGFRが60mL/min/1.73m2未満だった)。尿中アルブミン、アルブミン/クレアチニン比、β‐2ミクログロブリン/クレアチニン比、レチノール結合タンパク/クレアチニン比などの腎バイオマーカーでは臨床的に意味のある変化は認められなかった。Islatravirとドラビリンの併用において、腎臓への影響について用量反応関係は認められなかった。腎臓の有害事象により治療を中止した被験者はいなかった。
MK-8507単回投与で7日目のウイルス量が減少
続いて、MK-8507の第1相試験/後期第1相試験の結果について、MK-8507の薬物動態は、HIV-1感染症治療に対する週1回の投与を支持するものだった。
MK-8507の最高血中濃度到達時間(Tmax)は2〜7時間で、消失半減期(t1/2)は平均約58〜84時間だった。薬物動態は2mgから1200mgで概ね用量比例性を示した。報告されたMK-8507の有害事象は軽度であり、重篤な有害事象はなかったとしている。バイタルサイン、心電図、臨床検査における変化はなかった。最も高い頻度で認められた有害事象は頭痛、咳嗽および鼻漏だった。
また、抗HIV薬による治療歴のない成人男性HIV-1感染症患者18人に7日から14日にわたりMK-8507を40mg、80mg、600mgの用量で単回投与(各用量6人)した場合の抗ウイルス効果、薬物動態、安全性、忍容性を評価する後期第1相非盲検POC(proof of concept)試験も実施。MK-8507の単回投与により7日目のウイルス量が減少し、同じ期間に他のNNRTIを毎日投与した場合と同程度のウイルス量減少が認められた。投与後7日目のウイルス量減少の平均(95%信頼区間)は、40mgが1.22(1.52,0.91)log10copies/mL、80mgが1.50(1.80,1.19)log10copies/mL、600mgが1.53(1.84,1.23)log10copies/mLだった。
薬物動態は感染していない被験者と同様で、投与後7日での平均濃度は、40mg、80mg、600mgの用量でそれぞれ78.1nM、214nM、1400nMだった。600mg投与後10日目から、NNRTI関連耐性変異F227Cを有する株によるウイルス量のリバウンドが1人の患者に認められた。いずれの用量も有害事象の頻度は低く、最も高い頻度で認められた有害事象は鼻咽頭炎(3例)および頭痛(3例)だった。重篤な有害事象として、治験薬との因果関係がないと考えられる、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が1例報告されたとしている。
MK-8507の抗ウイルス効果とヒトにおける薬物動態のデータに基づき、同社は、MK-8507を週1回投与の抗レトロウイルス併用療法として第2相試験で引き続き評価する。
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