試験管内で肺炎球菌の殺菌効果が認められたヒノキチオールの効果をモデルマウスで検討
新潟大学は10月16日、植物成分のヒノキチオールで肺炎球菌(耐性菌を含む)による肺炎を治療できることがマウスモデルを用いた研究から明らかになったと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科の磯野俊仁歯科医師(大学院生)と土門久哲准教授、寺尾豊教授らと、小林製薬株式会社中央研究所の國友栄治博士らとの共同研究によるもの。研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症による肺炎で、国内死者は1,600人を超えた。しかし、新型コロナウイルスの出現以前から、肺炎は日本人の死因の第3位であり、昨年は13万人以上が亡くなっている。主な肺炎の原因細菌は肺炎球菌で、肺に肺炎球菌等の細菌や各種ウイルスが感染し、次いで肺組織の破壊や炎症が引き起こされる2段階のステップを経て発症する。また、抗生物質の頻用が一因となり、年々、抗生物質が効きにくい耐性菌が増加している。抗生物質は細菌感染症の特効薬であるため、耐性菌の増加は肺炎の治療において大きな障害となってきている。
同大の寺尾豊研究室では、肺炎の重症化メカニズム、およびその予防・治療法について研究してきた。そして昨年、佐渡市の木である「アテビ(ヒバ・ヒノキアスナロ)」などの植物から採取されるヒノキチオールが、試験管内で肺炎球菌(耐性菌を含む)を殺菌することを報告した。そこで今回の研究では、マウス生体の肺炎モデルにおいて、ヒノキチオールが肺炎球菌(耐性菌を含む)を殺菌できるのか、さらには肺炎の炎症等を緩和して治療につなげる効果があるのかを解析した。
ヒノキチオール投与により、肺炎球菌感染マウスで約80%の菌数減少
はじめに、マウスに肺炎球菌(耐性菌を含む)を感染させ、その後にヒノキチオールを投与し、生体内での殺菌作用を調べた。先行研究において、試験管内では1µg/mLのヒノキチオールで肺炎球菌(耐性菌を含む)に殺菌作用を示すこと、500µg/mLまでは培養細胞に傷害性(毒性・副作用)を示さないことを明らかにしていた。それを踏まえ、マウス体重比で約15µg/g(500µg/匹)のヒノキチオールを肺炎球菌感染マウスに投与した。肺胞中の肺炎球菌数を培養法で算定したところ、ヒノキチオール投与により、約80%の菌数減少を認めた。
次いで、ヒノキチオール投与群の肺組織を検鏡したところ、感染細菌を示す濃紫色の塊状沈着が減少していた。また、肺炎球菌感染マウスと比較し、肺傷害および炎症の著明な減少も観察された。以上の結果から、マウス肺炎モデルにおいても、ヒノキチオールは肺炎球菌(耐性菌を含む)に殺菌作用を発揮すること、肺組織の損傷や炎症を抑えることが示された。
ヒノキチオールによる肺組織の傷害抑制作用
病原微生物が肺に感染しても、それだけで肺炎は発症しない。感染に伴い、肺組織に自己傷害や病的な炎症等が生じることで引き起こされる。そこで研究グループは、肺炎球菌の感染時に免疫細胞から漏出し、自己組織への傷害作用を呈すエラスターゼの分布を蛍光顕微鏡で観察した。すると、肺炎球菌感染マウスの肺胞では、細胞核の周囲に多量のエラスターゼの分布、すなわち「細胞外への漏れ」が検鏡された。一方、ヒノキチオール投与群では、エラスターゼの細胞外への漏れの抑制が認められた。さらに肺における酵素活性測定から、ヒノキチオール投与によって、細胞外へ漏れたエラスターゼの活性が約90%減少することも定量された。以上の結果から、マウス肺炎モデルにヒノキチオールを投与すると、エラスターゼ依存性の肺組織傷害を抑制することが示唆された。
モデルマウスの炎症性サイトカイン産生を適切に抑制
肺炎が重症化する要因として、病原体の感染により炎症が過剰に引き起こされ、自己組織を傷害することも推察されている。具体的には、炎症性のサイトカインが過剰に産生されてしまい、病的に過大な炎症が誘発され肺組織が損傷されてしまうことが挙げられる。ただし、正常な炎症反応であれば、生体防御に貢献する。研究グループは、マウスの肺炎モデルにヒノキチオールを投与し、肺胞中の炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF等)の濃度を測定した。その結果、ヒノキチオール投与マウスでは、肺炎球菌感染に伴う炎症性サイトカイン産生が適切に抑制されることが確認されました。以上の結果から、ヒノキチオールは、肺組織における病的な炎症を抑制する作用もあると示唆された。
近年、抗菌薬の不適切な使用により、世界的にも薬剤耐性菌による感染症が増加している。その一方で、新たな抗菌薬の開発は滞っており、国際社会において大きな課題となっている。今回、ヒノキチオールは生体内でも抗菌作用(耐性菌を含む)と肺炎の治療作用を示すことが明らかになった。「水への難溶性が実用化の課題ではあるが、日本政府が掲げる、薬剤耐性(AMR)アクションプランの達成、あるいは新型コロナウイルス感染症等の広範な肺炎治療への活用も期待される」と、研究グループは述べている。
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・新潟大学 研究成果