医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 血管新生を抑制する新規シグナル伝達調節機構を発見-東京医歯大ほか

血管新生を抑制する新規シグナル伝達調節機構を発見-東京医歯大ほか

読了時間:約 4分31秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年10月19日 PM01:00

、タンパク質の輸送レール作用でシグナル伝達を抑制

東京医科歯科大学は10月16日、バソヒビン-1(vasohibin-1:VASH1)がタンパク質の輸送レールに作用することでシグナル伝達を抑制し、血管新生を抑えるという新たな制御機構をつきとめたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科硬組織病態生化学分野の小林美穂助教、渡部徹郎教授ら、東北大学加齢医学研究所腫瘍循環研究分野(現:東北大学未来科学技術共同研究センター)の佐藤靖史教授、鈴木康弘助教、Max Planck Institute forHeart and Lung Research, Laboratory for Cell Polarity and Organogenesisの中山雅敬グループリーダーらの研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「Angiogenesis」オンライン版で掲載されている。

病的な血管新生は、腫瘍の成長や粥状動脈硬化、および糖尿病性網膜症を含むさまざまな生活習慣病において疾患の進行に寄与することがわかっている。これら病的な血管新生を引き起こす主な促進因子としては、血管内皮成長因子(VEGF)や線維芽細胞成長因子-2(FGF2)がよく知られており、その中でも特に最も強力な促進作用を持つVEGFに対する抗血管新生療法が多く開発され、治療に応用されている。

しかし、VEGFには正常な血管を健やかに維持する機能もあるため、VEGFの働きを抑制すると正常血管への障害が引き起こされる場合がある。特に、腫瘍では複数の血管新生促進因子が腫瘍血管新生を誘導しているため、VEGF単独を抑制しても他の促進因子が血管新生を誘導し、薬が効かなくなってしまうという薬剤耐性の問題がある。そのため、これらのような副作用を示さない新しい抗血管新生治療法の開発が待ち望まれている。


画像はリリースより

血管新生促進刺激に反応した血管内皮細胞で発現上昇する遺伝子「VASH1」

生体内では恒常性を維持する仕組みにより、血管が過剰に形成されないようにする負のフィードバック調節が働いている。その生体内作用に基づいて同定されたのが、VASH1である。VASH1はVEGFやFGF2を始めとした多くの血管新生促進刺激に反応した血管内皮細胞で発現が上昇する遺伝子だ。培養血管内皮細胞やマウス生体内において、血管新生を抑制して、腫瘍の進展を抑える機能を有する。さらに、VASH1は、血管内皮細胞が受けるストレスに対する耐性を向上させて、強く健やかな血管を維持する機能も持つ。

このように、VASH1はこれまでの抗血管新生療法が持つ問題点を克服するために有効利用できる可能性がある。一方で、どのような細胞内制御機構を通して血管新生を抑制するのか、その詳細な仕組みが不明なために、創薬ターゲットとするには困難だった。

血管内皮細胞のΔY-チューブリン量増、ΔY/YレベルのバランスをΔY側に偏らせる

近年、VASH1が微小管の翻訳後修飾である脱チロシン化を誘導する酵素活性を持つことが報告されたが、その生物学的な役割については不明な点が多く残されていた。今回、研究グループは、VEGF刺激に応じて血管内皮細胞内でVASH1が産生されることに伴い、脱チロシン化型チューブリン(ΔY-チューブリン)が増加することを見出した。

さらに、VASH1によるΔY-チューブリンの増加は、微小管を再チロシン化する酵素であるチューブリンチロシン化酵素(tubulin tyrosine ligase:TTL)と共に作用させることによって、ΔY-チューブリン量を通常レベルと同程度にまで戻すことができた。

このことから、VASH1は血管内皮細胞のΔY-チューブリン量を過剰に増加させ、細胞内チューブリンのΔY/YレベルのバランスをΔY側に偏らせることがわかった。

VASH1による抗血管新生作用にはΔY-チューブリン量増が必要

続いて、血管内皮細胞でVASH1が引き起こす血管新生抑制的作用において、ΔY-チューブリン増加がどのような役割を果たすのかを解析した。

その結果、VASH1によってΔY-チューブリンを増加させるとVEGFに誘導される血管内皮細胞遊走やシグナル伝達の活性化、さらに生体での血管新生が抑制されたが、VASH1とTTLを共に作用させて細胞内のΔY-チューブリン量をコントロールと同程度にまで低下させると、VASH1が導くこれらVEGFに対する全ての抗血管新生効果が見られなくなった。この結果から、VASH1による抗血管新生作用にはΔY-チューブリン量の増加が必要であることが明らかとなった。

ΔY-チューブリン量増でシグナル伝達を抑制、抗血管新生効果を発揮

研究グループは、微小管の翻訳後修飾である脱チロシン化量の変化によってシグナル伝達の下流部分に影響したことに注目。細胞骨格である微小管は細胞運動において重要な働きをするが、細胞内でのタンパク質の輸送レールとしても機能することがわかっている。一方、細胞外リガンド刺激によるシグナル伝達の活性化には、細胞表面上に存在する受容体がリガンドと結合し、細胞内へシグナルを伝達させることが必要だ。

そして、特にVEGFやFGF2といった成長因子については、これらリガンドと結合した受容体がエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれて特定の場所に運ばれることが、シグナル伝達の活性化に必要であることがわかっている。VASH1により血管内皮細胞でのΔY-チューブリン量を増加させておくと、VEGF受容体2(VEGFR2)のエンドサイトーシスと細胞内輸送の促進が見られなくなった。一方、VASH1とTTLを共に作用させて細胞内のΔY-チューブリン量をコントロールと同程度にまで戻したところ、VEGF刺激によるVEGFR2のエンドサイトーシスや細胞内輸送が復活したという。これらの結果から、VASH1は血管内皮細胞でΔY-チューブリン量を増加させることで、受容体のエンドサイトーシス阻害を通してシグナル伝達を抑制し、抗血管新生効果を発揮していることが明らかとなった。

また、このようなVASH1の効果は、脱チロシン化酵素活性を持たないVASH1変異体では見られなかったことから、VASH1による抗血管新生効果には脱チロシン化酵素活性が必要であることも明らかになった。

副作用が少ない・効果的な新規の抗血管新生療法開発に期待

腫瘍血管新生を対象にしたVEGFのみを標的とした抗血管新生療法では、薬剤耐性をはじめとした副作用が問題になっていた。今回の研究では、VASH1はΔY-チューブリン量の増加を通してVEGFだけでなくFGF2による受容体のエンドサイトーシス、シグナル伝達の活性化および血管内皮細胞遊走の促進を抑制できることが明らかになった。このVASH1の仕組みを応用することで、病的な血管新生が及ぼす疾患に対して、副作用が少なく効果的な新たな抗血管新生療法への導出が期待される。

また、VASH1による受容体のエンドサイトーシス阻害作用は、一般的な受容体において広く機能しているエンドサイトーシス駆動分子であるダイニンの働きに影響するものだった。そのため、VASH1によるΔY-チューブリン量の増加の仕組みひとつでさまざまなリガンド/受容体の下流で活性化するシグナル伝達を抑制できる可能性があり、将来的にはシグナル伝達の異常な活性化により引き起こされる多様な疾患に対する治療に応用できる可能性がある、と研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大