5分間の安静時呼吸で1mL程度の呼気凝縮液を収集、質量分析装置で解析
東北大学は10月16日、新型コロナウイルス対策に向けた呼気オミックス解析システム開発に取り組み、自然に吐く息(呼気)を用いた「無侵襲呼気オミックス解析法」による検査システムを開発したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科および加齢医学研究所と、株式会社島津製作所との共同研究によるものだ。
画像はリリースより
呼気オミックスは、主として質量分析装置(試料をイオンに変換し、質量でふるい分けることによって、試料に含まれる成分の同定と定量を行う装置)を用いて、エアロゾル中のウイルスタンパク質・ゲノムと同時に被験者由来の炎症メディエータやエネルギー代謝物を効率良くかつ安全に回収し、ロボット化全自動高速・超高感度オミックス解析を行う。「被験者への無侵襲性」「得られる情報の豊富さ」が大きな長所だ。同大が開発した高性能呼気エアロゾル回収装置を用いれば、5分間の安静時呼吸で、1mL程度の呼気凝縮液を、被験者自身の操作により得られるという。自宅で呼気を収集できるようになれば、感染拡大の主要因となる無症状感染者・軽症者の早期特定、発症と重症化の早期予測と予防に有用な検査体制の構築が可能になる。
呼気オミックスでは、新型コロナウイルス感染の有無だけでなく、病期・病状の評価、重症化のリスク判定、予後・合併症の予測につながる情報も取得可能だ。今回対象とする新型コロナウイルス以外の新型ウイルスにも対応でき、複数ウイルスの同時測定も可能なため、コロナ収束後も感染症対策に役立つとされる。
新型コロナだけでなく、「未来型呼気医療」への展開に期待
令和2年度文部科学省1次補正予算(国立大学の研究基盤の強化)の下、新型コロナ感染事業「新型コロナウイルス対策に向けた呼気オミックス解析システム」により、2020年5月、東北大学医学部内に「呼気オミックス研究センター」を設置。同大と島津製作所は、新型コロナウイルス診断法の共同開発に取り組み、今回の研究成果となった。
両者は、呼気オミックスの応用範囲を感染症以外の病気の診断や健康診断などの健康医療分野へと広げることで未来型呼気医療に展開する予定。さらに、呼気や環境、ゲノム(遺伝子)といった各種オミックス解析情報のデータベースを構築することで、呼気医療による、心血管・肺疾患、生活習慣病、糖尿病などの代謝性疾患、がんなどの診断のみならず、呼気オミックスを活用した在宅での健康管理・健康診断などの遠隔医療を通じて、未病・予防と長寿に資する個別化未来型医療の開発を推進する。
また、島津製作所は、開発した検査システムの社会実装のために、「前処理から質量分析、データ解析までの工程を自動化するトータルシステムの開発」「全国各地の中核病院や検査機関への検査システム水平展開と感染症対策ネットワーク構築」に取り組むとしている。
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