厚生科学審議会再生医療等評価部会は8日、千葉大学医学部附属病院から、悪性胸膜中皮腫を対象にNK4遺伝子を発現するアデノウイルスベクターを投与する臨床研究を受けた患者が、昨年12月に膵癌の進行で死亡したと報告を受けた。同院は、遺伝子治療を原因とする有害事象は見られなかったとし、死亡と直接の因果関係がないとの見解を示した。厚生労働省大臣官房厚生科学課は、「結論に異論は出なかった」と説明している。
死亡が確認され、「遺伝子治療等臨床研究重大事態」として報告されたのは、切除不能な悪性胸膜中皮腫を対象にNK4遺伝子を発現するアデノウイルスベクターを投与して安全性と有効性を確認する臨床研究(研究責任者=巽浩一郎千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学教授)。
悪性胸膜中皮腫はアスベストに曝露することが主な原因とされ、外科的切除や放射線療法には限界があり、胸膜肺を全摘出する侵襲性の強い手術を行うため、患者のQOLが著しく低下するなどの課題がある。
一方、ウイルスベクター製剤投与のメリットは、拡散せずに閉鎖空間である胸腔内にとどまり、腫瘍との接触時間が増えて遺伝子導入効率が上昇するほか、肝障害が少ないとしている。
今回報告された事例は、70歳代男性が膵癌の進行により死亡したもの。男性は1日20本の喫煙歴が45年間に及ぶほか、化学プラントの建設に従事し、アスベストに曝露した可能性があるとされ、勤務時の呼吸困難等を訴えていた。
15年に同院で上皮型中皮腫の診断を受け、翌年胸腔内にウイルスベクターが投与され、投与5日後の検査では肝機能障害や心電図異常などは確認されずに退院した。
しかし、18年に胆管炎と閉塞性黄疸で再入院し、膵癌と診断された後、胸水や腹水の貯留が確認され、19年12月に死亡した。
死亡事案と臨床研究の関連性について、同院は「アデノウイルス投与による有害事象は軽微で短時間に回復し、その後も遺伝子治療に起因する有害事象は確認されなかった」としている。膵癌の発症にウイルスが関与しているかについては、「ウイルスが染色体に取り込まれるリスクは高いとは考えにくい」とした。