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AI手法を組み合わせ、機能向上と副作用低下を両立させた人工心臓をデザイン-産総研

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2020年10月14日 PM01:00

心臓移植までのつなぎとして用いられる人工心臓の最適化手法を開発

)は10月13日、複数の人工知能()の手法を組み合わせて、少ない数値シミュレーションの解析データで人工心臓のデザインを最適化したと発表した。これは、同研究所安全科学研究部門(研究部門長 緒方雄二)社会とLCA研究グループ 河尻 耕太郎主任研究員と健康医工学研究部門(研究部門長 達 吉郎)人工臓器研究グループ 小阪 亮主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。なお、同手法の詳細は、2020年5月23日に「日本品質管理学会第122回研究発表会」にて発表された。


画像はリリースより

厚生労働省2018年の人口動態統計月報年計によると、心疾患は、がんに次ぐ現代の日本の3大死因の一つであり、死亡者数は年間約20万人で、年間総死亡者数約135万人の15%を占める。中でも心不全による死亡が最多であり、従来の手法では治癒困難な重症心不全には、心臓移植が有効な治療法である。しかし、日本国内では深刻なドナー不足のため、現在の心臓移植の平均待機期間は約1,180日である。そのため、心臓移植までのつなぎとして、心機能を補助する体内埋込型補助人工心臓が用いられている。

同研究所は、内部のインペラが血液中を非接触で回転浮上する、動圧軸受を用いた体外設置型動圧浮上遠心血液ポンプの開発を進めてきた。この血液ポンプにより、手術中から体内埋込型補助人工心臓を適用するまでの中長期の血液循環を補助することができる。動圧軸受の設計には、動圧溝本数、溝角度、溝の深さなど、多数のデザインパラメータ(入力)がある。また、血液ポンプの動圧軸受は、インペラを浮上させる高い軸受剛性と、赤血球破壊などが発生しにくい血液適合性を同時に満たす必要がある。そのため、製品の要求性能としては、動圧軸受が発生する力の増加、赤血球破壊の減少など、複数の目的変数がある。そのような多入力多目的のシステムの試行錯誤による最適化には限界があるため、より効率よく開発を進める手法を必要としていた。一方、そのような多入力多目的システムを簡易に最適化するため、実験計画法の枠組みに、多目的遺伝的アルゴリズムを組み合わせた多入力多目的最適化手法を開発していた。

今回研究グループは、この最適化手法にニューラルネットワークの解析手法を取り込み、人工心臓のデザイン最適化に適用を試みた。

動圧軸受の発生力の増加と赤血球破壊の減少を同時に実現できる可能性

今回用いた新たな実験計画法は、実験計画作成(Plan)、実験(今回の研究では数値シミュレーション)を実施(Do)、ニューラルネットワーク(NN)モデルにより目的変数を入力変数で近似(Check)、多目的遺伝的アルゴリズム(MOGA)により各目的変数に対して入力変数を多目的最適化(Action)、のPDCAサイクル。必要最小限の実験(今回の研究では数値シミュレーション)回数で、多入力多目的の複雑システムの最適解を簡易に探索できるという。

CheckにNNを用いることで多重共線性の問題がなくなり、入力変数間の相関のチェックが不要で、従来の単純な線形回帰式よりも複雑な入力出力関係をモデル化できる。また、ActionにMOGAを用いることで、トレードオフ関係にある複数の目的変数を同時に最適化できる。

なお、今回はAIZOTH社が開発中の人工知能統合解析プラットフォーム(Multi-Sigma)を用いてNNとMOGAの解析を実施。また、実験データとして数値シミュレーションによるデータを用いた。さらに、3次元CADソフトを用いて動圧軸受の3次元モデルを作成し、熱流体解析ソフトウエアにより、インペラを浮上させる動圧軸受の発生力と赤血球の壊れやすさ(DI値)を算出したとしている。

同実験計画法により、動圧軸受の発生力の増加と赤血球破壊の減少を同時に実現するデザインを探索したところ、従来は、経験的に動圧軸受の溝本数は8~12本程度であったが、今回探索されたデザインでは、溝本数は5本程度と少なく、従来の設計指針とは異なる結果だったという。また、従来、動圧軸受の発生力の増加と赤血球破壊の減少はトレードオフの関係で同時に達成できないと考えられていたが、今回の結果では同時に達成できる可能性が示唆された。今回の結果は、あくまで数値シミュレーションによるもので、今後、実機による検証が必要となるが、従来の経験的な試行錯誤では得られなかったような、新たな解が探索できる可能性が示唆された。

広い分野における多入力多目的システムの研究開発への応用に期待

今回用いられた最適化手法は、多入力多目的の複雑システムを、少ない実験データを用いて簡易に最適化する際に有効である可能性が示唆されたため、製品のデザインパラメータや製造プロセスの製造条件などを最適化するなど、広い分野における多入力多目的システムの研究開発への応用が期待できる。

「今後は、実際に試作した動圧軸受による実験を通じて、今回の結果を検証する。また、今回用いた最適化手法については、社会的なインパクトの大きいさまざまな事例に適用し、社会的課題の解決と有効性の検証を行いたい」と、研究グループは述べている。

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