相手が自分との関係にコミットしていることを示唆する情報を判断する脳部位は?
神戸大学は10月7日、友人からのコミットメント・シグナルに応じて、友人との関係の価値が、経済的価値全般を計算するのと同じ部位である眼窩前頭皮質で判断されていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院人文学研究科の大坪庸介教授、名古屋大学大学院情報学研究科の大平英樹教授、愛知医科大学の松永昌宏講師および同大衛生学講座の研究グループ、高知工科大学の日道俊之講師の研究グループによるもの。研究成果は、「Social Neuroscience」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
多くの人は友人が自分のために時間を使ってくれたり、自分に注意を向けてくれたりすると嬉しく感じ、相手との関係を大事に思うようになる。このことは、相手の行動が自分にとって有益な結果とならなくても同様だ。例えば、悩みを聞いてはくれたけれど、悩み自体は解決しなかったというような状況でも、相手のことを大事な友人だと思う気持ちは強くなる。
そこで研究グループは、このような、相手が自分との関係にコミットしていることを示唆する情報(コミットメント・シグナル)に応じて、相手との関係の価値を判断する脳部位を調べた。
眼窩前頭皮質は「コストあり」で最も強く活動し、「シグナルなし」では最も活動が弱まる
研究では、対人関係の価値を判断する脳部位を特定するために、fMRIを用いて脳機能を計測しながら、20代の男女22人の参加者に課題を行ってもらった。参加者には、特定の友人とやりとりをする場面を、パターン別に計30種類、それぞれ別々に起こった出来事として想像してもらった。
例えば、自分の誕生日に友人と一緒に食事に行く場面などがある。1つの場面につき、「コストあり」「コストなし」「シグナルなし」の3種類の分岐シナリオがあり、この場面での「コストあり」では、友人が誕生日を祝って食事をおごってくれ(経済的コストを伴っている)、「コストなし」では友人は「おめでとう」と祝福の気持ちを伝えてくれ(経済的コストは伴わない)、「シグナルなし」では友人は誕生日について何も言わない。このような場面が10種類、それぞれに「コストあり」「コストなし」「シグナルなし」の3つの分岐があり、合計30通りのシナリオになる。これらのシナリオに対し、友人の行動によって相手との関係がよくなるか悪くなるかを、0(非常に悪くなる)~100(非常によくなる)で評定してもらうことをくり返した。
その結果、眼窩前頭皮質という部位が強く活動していると判明。眼窩前頭皮質は「コストあり」シナリオで最も強く活動し、「シグナルなし」では最も活動が弱まった。また、統計的に有意差があったのも、この2つのシナリオ間だけだったという。
経済的価値を判断する眼窩前頭皮質で相手との関係価値を判断・更新している可能性
眼窩前頭皮質は、経済的価値の計算などをすることが知られている。例えば、空腹の実験参加者に、さまざまなお菓子について、後でそれらを実際に購入して食べることができるという条件で、どれくらいなら支払ってもよいかを判断させる実験でも眼窩前頭皮質が活動していた。この場合、参加者の脳はお菓子の価値づけをしている。
今回の研究成果により、友人からのコミットメント・シグナルを受け取ると、脳はお菓子を用いた実験と同じように、自動的に相手との関係の価値を判断して、関係価値の更新をしている可能性が示された。
また、同研究では、実験前に質問用紙に回答してもらい孤独感の測定も行っていた。その結果、孤独感が高い人ほど眼窩前頭皮質の活動が弱い可能性が示された。今後はより多くの実験を重ねることにより、孤独感が高い人は、友人からのコミットメント・シグナルへの感受性が弱いために孤独を感じやすいのか、あるいは孤独感が高まるとそのような情報をシャットアウトするようになるのか、孤独感と眼窩前頭皮質の活動の関係を確認するとともに、なぜ孤独感がコミットメント・シグナルへの感受性に関係しているのか等を明らかにしていく必要がある。研究グループは、「これらの研究が進展することで、よりよい対人関係を構築するためのメカニズムの解明が期待される」と、述べている。
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