T細胞に注目して、新型コロナ肺炎重症化の原因を研究
熊本大学は10月9日、新型コロナウイルス感染症患者の肺組織のT細胞を対象とした遺伝子解析を実施することにより、重症化に特徴的なT細胞の異常を発見、重症患者ではT細胞に内在するブレーキが働かなくなった結果、T細胞が過剰に反応し、重症化を引き起こしている可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野昌弘准教授(熊本大学国際先端医学研究機構客員准教授)と熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター佐藤賢文教授の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Immunology」に掲載されている。
画像はリリースより
新型コロナウイルス感染症は現在も拡大が続いており、日常生活、社会・経済活動に甚大な影響を及ぼしている。感染者の大部分は無症状やごく軽症であるのに、なぜ一部が重症化するかは未解明であり、大きな疑問だ。これまで指摘されている重症化のリスク因子には高齢・糖尿病・肥満・高血圧などがある。また、重症患者では、血液中の炎症性物質(炎症性サイトカイン)の量が増え免疫系が過剰反応していることが知られる一方で、免疫細胞の司令塔「T細胞」が血液中で著しく減少していることが認められている。しかし、これらの知見についての医学的意味はまだ不明だ。今回、研究グループは、ウイルスを特異的に認識することで免疫系の活性を調整・指揮する「T細胞」に注目し、肺炎重症化の原因について研究を行った。
患者肺組織のCD4+T細胞を遺伝子解析、Foxp3抑制とT細胞活性化を確認
T細胞は、新型コロナウイルス感染症においても、ウイルス排除ならびに免疫獲得に重要な役割を果たしている。中でもCD4+T細胞(ヘルパーT細胞)は、ウイルスを攻撃する「細胞傷害性T細胞」や抗体を産生する「B細胞」の成熟・活性化を促進し、ウイルスを体内から排除する重要な働きをしている。その一方で、一部のCD4+T細胞は高度に活性化すると転写因子FoxP3を発現して、いわゆる抑制性T細胞(制御性T細胞)となり、T細胞反応を抑制するブレーキ役として働く。今回の研究では、中国武漢の新型コロナウイルス感染症患者の肺組織の遺伝子データを使用して、その中に存在するCD4+T細胞の活性ならびに遺伝子の特徴を調べた。
最先端のバイオインフォマティクス技術を用いて解析した結果、重症化肺炎患者の肺組織ではT細胞が著明な活性化を示している一方で、Foxp3の誘導が阻害されており、T細胞の反応を止めるブレーキ機能に異常があることを発見。すなわち、ブレーキ機能が低下することで多くのT細胞が過剰反応し、新型コロナウイルス感染症患者の肺炎が重症化している可能性が示された。
今回の研究は、重症化肺炎と免疫細胞であるT細胞異常の関連性を明らかにしたものであり、新型コロナウイルス感染症患者における肺炎重症化メカニズム解明につながる新たな知見が見出された。これを足がかりに、より詳細な病態解明がなされることで、新型コロナウイルス感染症の重症化を抑制する薬剤開発や重症化リスクの診断に貢献する可能性があると、研究グループは述べている。
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