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浸潤性粘液性肺腺がん、腫瘍の粘液発現タイプが予後予測に有用な可能性-順大ほか

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2020年10月09日 PM12:00

効果的な治療法がない浸潤性粘液性肺腺がん

順天堂大学は10月8日、肺がんの一種である浸潤性粘液性肺腺がんにおいて、腫瘍細胞の粘液発現タイプを解析することにより、患者の予後が予測できる可能性を見出したと発表した。この研究は、同大医学部人体病理病態学講座の岸川さつき助手、林大久生准教授、齋藤剛准教授、呼吸器外科学講座の高持一矢准教授らが、国立がん研究センターの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Modern pathology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

肺がんは国内においてがんによる死亡の一位を占めており、なかでも、肺腺がんの一種である浸潤性粘液性肺腺がんは、いまだ効果的な治療法がなく、化学療法、外科手術、放射線治療を組み合わせた治療が行われている。また、分子標的治療の対象となり得る遺伝子異常が少なく、患者の予後に個人差があることが課題だった。浸潤性粘液性肺腺がんには限局性病変を形成する予後のよい群と、両側の肺に広く進展する予後の悪い群があることから、患者のよりよい治療法選択のために、このような群を簡便に区別する方法の開発が必要とされている。

そこで今回、研究グループは、浸潤性粘液性肺腺がんを区別し、診断の細分化と患者の予後を予測することを目的に浸潤性粘液性肺腺がんの粘液に着目して、網羅的遺伝子解析と粘液発現パターンを組み合わせた解析を進めた。

約3分の2でKRAS変異を確認、EGFR変異、ALK、ROS1、RET融合遺伝子は認めず

研究グループは、順天堂医院で患者から切除された浸潤性粘液性肺腺がんの組織に対し、次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子解析と免疫組織化学によるタンパク発現の統合的解析を実施。腫瘍の分子病理学的特徴や粘液発現パターンを詳細に調べた。

その結果、浸潤性粘液性肺腺がんの全ての再発は肺内に限局し、肺外転移もみられなかったことから、一般的な肺腺がんとは大きく異なる特徴をもつことが判明。さらに、遺伝子解析の結果からがんの発生・進展に直接的に重要な役割を果たすドライバー遺伝子の変異として約3分の2にKRAS変異がみられ、一般的な肺腺がんで見られるEGFR変異、ALK、ROS1、RET融合遺伝子は認めなかった。そして、KRAS変異型の方がKRAS野生型に比べ予後不良であることがわかった。

MUC6高発現タイプの浸潤性粘液性肺腺がん、良好な予後が期待できる

一方、粘液発現パターン解析の結果では、粘膜の粘性物質ムチンMUC1およびMUC4陽性例は陰性例に比べ予後不良だった。さらに、ヒトでは通常発現の無いMUC6が高発現する症例群は、MUC6陰性・低発現の症例群に比べ予後良好であり、MUC6高発現群においては1例も再発、死亡を認めないことが判明。そして、MUC6高発現症例は、より小さな腫瘍径、女性、KRAS野生型と有意に関連していることが明らかとなった。

これらの結果から、浸潤性粘液性肺腺がんにおける腫瘍の粘液発現パターンを調べることで、患者の予後が予測できる可能性を見出した。今回の研究でMUC6が高発現するタイプの浸潤性粘液性肺腺がんでは、良好な予後が期待できることがわかった。

予後と結びついた診断・適切な治療選択によるがん個別化医療発展に期待

今回の研究成果は、これまで不明であった浸潤性粘液性肺腺がんの予後と腫瘍の粘液発現タイプとの関係を明らかにし、今後の肺腺がんの診断の細分化と治療法選択に大きく道を開く可能性を示したとしている。

現在、浸潤性粘液性肺腺がんは患者によって様々な予後をたどるが、外科的治療以外の治療としては一般的な化学療法が選択されている。同研究の成果は、浸潤性粘液性肺腺がん症例のがん細胞の粘液発現パターンを調べ、MUC6の高発現を認めた場合には患者に良好な予後が期待できることを示している。今後、さらなる研究により本成果を検証することで、肺腺がんにおける予後と結びついた診断および適切な治療選択によるがん個別化医療の発展が期待される、と研究グループは述べている。

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