SARS-CoV-2はIAVに比してヒト皮膚上で長期間生存
京都府立医科大学は10月5日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がインフルエンザウイルス(IAV)に比してヒト皮膚上で長期間生存することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科消化器内科学の廣瀬亮平助教、内藤裕二准教授、伊藤義人教授、法医学の池谷博教授、感染病態学の中屋隆明教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Clinical Infectious Diseases」掲載されている。
SARS-CoV-2によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミックとなり、現在、世界中に多大な経済的・人的損失を与えている。COVID-19は、主に飛沫感染と接触感染によって感染が拡大していると考えられている。接触感染は、ヒトの手指等の皮膚を介してのウイルスの運搬および体内への侵入により成立するため、ヒト皮膚表面上のウイルスの安定性(生存時間)を明らかにすることは、SARS-CoV-2の接触感染リスク評価とより有効な感染制御方法の構築において極めて重要だ。
これまでのSARS-CoV-2に関する研究において、金属・プラスチック等さまざまな物体表面上でのウイルスの安定性については解明が進んでおり、感染制御に貢献する非常に重要な知見を提供している。一方、SARS-CoV-2のような高病原性・高伝染性の病原体を被験者の皮膚に塗布する研究は被験者に危険が及ぶことから施行できないため、接触感染制御において最重要な情報であるヒト皮膚表面上でのSARS-CoV-2の安定性については明らかになっていない。
画像はリリースより
病原体安定性評価モデルを構築、被験者皮膚上での安定性評価を極めて正確に再現
研究グループは法医解剖献体から採取した皮膚を用いた病原体安定性評価モデルを構築。他臓器に比して皮膚、特に表皮は死後の劣化速度が比較的遅いため、法医解剖献体から採取した死後約1日の皮膚を使用した評価モデルは生体皮膚に近い解析の実現が期待される。
構築したモデルの再現性を確認するため、被験者の皮膚と構築した皮膚モデルを用いて、比較的危険性の低いインフルエンザA型ウイルス(IAV:PR8株)のそれぞれの皮膚表面上での安定性を評価・比較。その結果、皮膚上のIAVは、いずれも60分程度で完全に不活化され、各経過時間におけるモデル皮膚表面上で生存するウイルス量は、被験者皮膚上で生存するウイルス量とおおむね一致していた。
これらの結果は、研究グループが構築した病原体安定性評価モデルが、実際の被験者の皮膚上での安定性評価を極めて正確に再現していることを示している。
両ウイルスとも、ヒト皮膚表面の生存時間は身の回りの物体より短い
上記を踏まえ、研究グループはSARS-CoV-2とIAVを対象病原体として、ヒト皮膚表面上(および各物体表面上)のウイルス安定性を構築したモデルを用いて評価した。さらに、皮膚上のSARS-CoV-2とIAVに対する80%w/wエタノール消毒薬の消毒効果評価を行った。
評価の結果、IAVの生存時間はステンレススチール・耐熱ガラス・ポリスチレンの表面上で約6~11時間だった。一方、SARS-CoV-2の各表面上での生存時間は約58~85時間であり、IAVに比して高い安定性を示した。
皮膚上のSARS-CoV-2とIAVの生存時間は、ステンレススチール・耐熱ガラス・ポリスチレンの表面の生存時間より大幅に短くなった。このことから身の回りの物体の表面に比べて、ヒト皮膚の表面はウイルスの生存には不向きであることがわかった。
SARS-CoV-2は皮膚で9時間生存、80%エタノール15秒で完全に不活化
ステンレススチール・耐熱ガラス・ポリスチレン表面より皮膚表面での生存時間が短くなったとはいえ、SARS-CoV-2は皮膚表面上で9時間程度生存し、1.8時間程度で不活化されるIAVに比して大幅に生存時間が長くなった。このように、SARS-CoV-2はIAVよりも長期にわたり皮膚上で感染力を保ち続け、接触感染のリスクが持続することが明らかとなった。
ヒト皮膚表面上のSARS-CoV-2は、80%エタノールによる15秒間の消毒で完全に不活化された。エタノール消毒薬を使用した手指衛生は、本来9時間程度続くSARS-CoV-2の接触感染のリスクを速やかに低下させることができ、感染制御上きわめて効果的なプラクティスであることが示された。
手指衛生の徹底がSARS-CoV-2感染拡大防止に重要である根拠に
今回の研究により、SARS-CoV-2はIAVに比してヒト皮膚上での安定性が高いため、接触感染による感染拡大のリスクがIAVより高い可能性が示唆された。
今回明らかになったヒト皮膚上でのSARS-CoV-2生存時間は、接触感染のリスクを有する具体的な期間や感染経路の特定に役立つという。また、手指衛生の徹底がSARS-CoV-2の感染拡大防止に重要であることの根拠を提供する。
さらに、研究グループの考案した剖検体皮膚を用いた病原体安定性評価モデルは、SARS-CoV-2以外の高病原性・高伝染性病原体のヒト皮膚表面上での安定性や消毒薬効果の評価を可能とするもので、今後の感染制御の発展に大いに貢献する、と述べている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース