AMLのリスク分類をより正確に行える新規マーカーは?
京都大学は10月2日、MLL(KMT2A)再構成の急性骨髄性白血病(AML)において、KRAS遺伝子変異を持つ症例は予後不良であることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学研究科の松尾英将助教、吉田健一助教(研究当時、現:Wellcome Sanger Institute 研究員)、小川誠司教授、足立壯一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood Advances」に掲載されている。
画像はリリースより
AMLは、白血病細胞にみられる染色体異常の種類等に応じてリスク分類され、リスクに応じた治療が行われる。例えば、造血幹細胞移植などの強力な治療は感染症や晩期合併症といったリスクも大きいため、全てのAML患者に行うことは好ましくなく、高リスクと考えられる患者に限定して行われる。しかし、低〜中間リスクとされた患者でも再発・死亡例が相当数みられるなど、現在のリスク分類は決して満足できるものではない。このことから、患者の予後をより正確に予測できる新しいマーカーの同定が必要とされている。特に乳児から小児で頻度が高い病型であるMLL(KMT2A)再構成のAMLでは、MLL再構成のパターンによって予後が異なることは知られているが、共存する遺伝子変異の予後への影響はほとんどわかっていない。
小児/成人のMLL再構成AMLの解析からKRAS遺伝子変異との関連が判明
研究グループはまず、JCCG(日本小児がん研究グループ)による臨床試験(AML-05)に登録された56例の小児MLL再構成AML症例の検体を用いて、次世代シークエンサーを用いた網羅的遺伝子解析を行った。さらに、104例の海外の小児AML患者のデータセットを統合して解析することで、MLL再構成パターンごとの遺伝子変異の分布を明らかにした。
次に、小児MLL再構成AMLにおいて検出された各遺伝子変異の予後への影響を調べたところ、KRAS遺伝子の変異が予後不良に関与していることが判明した。さらに、ドイツのグループとの共同研究により、81例の成人MLL再構成AMLについても解析したところ、KRAS遺伝子変異を有する群は予後不良だったことが明らかになった。一方、581例のMLL再構成症例以外のAML症例についても解析を行ったが、KRAS遺伝子変異の予後との関連はみられなかった。
特定のMLL再構成パターンの症例はハイリスク
最後に、高リスク(予後不良)とされているMLL再構成パターン(MLL-MLLT10、MLL-MLLT4、MLL-MLLT1)を持つ症例と、それ以外のMLL再構成パターンを持つ症例に分けて、KRAS遺伝子変異の頻度と予後への影響を調べた。その結果、KRAS遺伝子変異は高リスクのMLL再構成パターンを持つ症例において約43%と頻度が高く、それ以外の症例では16%と頻度が低いこと、さらにいずれの患者群においてもKRAS遺伝子変異が予後不良と関連していることが明らかになった。
特定のMLL再構成パターン(MLL-MLLT10、MLL-MLLT4、MLL-MLLT1)を持つ患者が高リスクである理由の少なくとも一部は、高頻度のKRAS遺伝子変異により説明される可能性があること、MLL再構成パターンに基づくリスク分類にかかわらず、KRAS遺伝子変異は予後不良に関与することが示された。
MLL再構成AMLと診断された際に、白血病細胞にKRAS遺伝子変異がみられるか調べることで、より正確なリスク分類が可能になり、リスクに応じた適切な治療の選択につながる可能性が考えられる。「今後は、さらに多数の検体を用いてKRAS遺伝子変異の予後因子としての意義をより詳細に明らかにすること、また今回予後不良であることが判明した、KRAS遺伝子を伴うMLL再構成AMLに対する新規治療法の開発を行うことを予定している」と、研究グループは述べている。
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・京都大学 研究成果