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目の水晶体、「RNG140」が分化に向かわせるスイッチとなることが判明-基生研ほか

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2020年10月05日 PM12:15

レンズの分化の際に一過的に増加するRNG140の役割は?

基礎生物学研究所は10月2日、目の水晶体(レンズ)分化においてRNG140が翻訳を抑制する仕組みを明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所生命創成探究センターの中沢香織大学院生(総合研究大学院大学)、椎名伸之准教授らの研究グループが、理化学研究所開拓研究本部(七野悠一基礎科学特別研究員、岩崎信太郎主任研究員)の研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「Journal of Biological Chemistry」の掲載に先立ち、オンライン公開されている。


画像はリリースより

目のレンズが形成される過程では、まずレンズ線維細胞が分裂して増殖する。その後増殖が停止し、細胞が圧縮されると共にレンズ特有のタンパク質であるクリスタリンなどが合成されることによって、透明なレンズ核が形成される。このようなレンズの分化の際に一過的に増加するタンパク質合成()制御因子として、(caprin2)が知られている。RNG140を欠損したマウスでは、実際にレンズ核の形成不全が起こることが報告されている。しかし、RNG140がどのようにレンズ核形成に関与するのかは不明だった。

RNG140はレンズ分化に関わる翻訳は抑制せず、細胞増殖促進に関わる翻訳を抑制

研究グループはまず、培養細胞(卵巣由来CHO細胞やレンズ由来SRA 01/04細胞)にRNG140を過剰に発現させた。すると、伝令RNAに結合していないリボソームが増加し、全体的な翻訳が低下した。これらの細胞ではRNG140は翻訳開始因子eIF3と結合していることが質量分析の結果からわかった。そこでeIF3依存的及び非依存的翻訳のレポーター解析を行い、その結果、RNG140はeIF3の活性を抑制することで翻訳を抑制することが明らかになった。

次に、培養細胞に過剰発現したRNG140がどの伝令RNAの翻訳を抑制するのかを、リボソームプロファイリング法により網羅的に解析。その結果、長い伝令RNAの翻訳が抑制され、他方、短い伝令RNAの翻訳は相対的に上昇する傾向にあることがわかった。さらに翻訳抑制された長い伝令RNAは細胞増殖の促進に関連するものを多く含んでおり、実際にRNG140過剰発現細胞では細胞増殖の速度が低下した。

最後に、マウスの目において、RNG140の欠損が翻訳に及ぼす影響を、リボソームプロファイリング法により網羅的に解析。その結果、培養細胞におけるRNG140過剰発現とは逆相関する結果が得られた。すなわち、細胞増殖を促進する長い伝令RNAの翻訳は、RNG140による抑制が解除されて上昇し、他方、短い伝令RNAの翻訳は相対的に低下した。レンズの分化に関与するクリスタリンなどの伝令RNAは総じて短く、実際にそれらの翻訳はRNG140の欠損によって相対的に低下した。このような細胞増殖促進に関わる翻訳の上昇及びレンズ分化に関わる翻訳の相対的低下が、RNG140欠損マウスにおけるレンズ核の形成不全を引き起こしたと考えられる。以上の結果から、通常の野生型マウスのレンズ線維細胞では、RNG140の一過的増加によって細胞増殖に関与する長い伝令RNAの翻訳が抑制され、他方、レンズ分化に関与する短い伝令RNAはその抑制を回避することで、細胞増殖の停止とレンズ核への分化が促進されていると考えられた。

加齢や白内障に伴う眼機能障害の治療につながる可能性も

今回の研究は、RNG140が関与する翻訳制御機構が、細胞増殖と分化を切り替えるスイッチとして働き、その際に伝令RNAの長さを区別し制御するというモデルを提示したもの。この長さの区別を担うのがRNG140なのかeIF3などの他の因子なのかを明らかにすることは、今後の課題として残されている。長いRNAが、タンパク質の三次元構造をとらないディスオーダー領域(IDR)や液-液相分離によって形成される液滴と相互作用しやすいという可能性は興味深く、RNG140やeIF3のIDRがその相互作用に関わる可能性が検討課題として挙げられる。また、伝令RNAの長さを区別し制御するという制御機構が、レンズに限らずさまざまな細胞の分化や運命決定にも共通するかどうか、今後の研究展開が期待される。

加齢や白内障に伴いレンズ核は過剰に圧縮される。研究グループは、「RNG140の欠損によりレンズ核の圧縮は減少することから、RNG140およびRNG140によって翻訳が調節されるタンパク質を標的にすることによって、眼機能障害を改善する手立てにつながるかもしれない」と、述べている。

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