卵胞機能評価可能な卵巣に子宮内膜症病巣を有するモデルマウス作製は報告がない
名古屋大学は10月1日、新規に卵巣子宮内膜症モデルマウスを開発し、鉄を介した酸化ストレスによる卵胞への機能低下と妊孕性低下を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・産婦人科学の林祥太郎大学院生、中村智子講師、梶山広明准教授、同・生体反応病理学の豊國伸哉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「Redox Biology」電子版に掲載されている。
子宮内膜症は、生殖可能年齢女性の約10~15%が罹患するとされている。骨盤内に逆流した子宮内膜が生着することで、炎症、癒着、月経困難の原因となる。卵巣では嚢胞性病変を形成することで、不妊症や一部の卵巣がんの発生母地にもなると考えられている。
子宮内膜症の基礎研究においては、若年患者の病変を卵巣も含めて摘出することは倫理的に認められていない。これまで、主な手法として腹膜病変、深部内膜症のモデルマウスを用いた報告はあったが、卵胞機能を評価できる卵巣に子宮内膜症病巣を有するモデルマウスを作製した報告はなかった。そこで、今回研究グループは、新たな手法を用いて卵巣子宮内膜症モデルマウスを開発した。
画像はリリースより
過剰鉄を介して卵胞への酸化ストレスの増加とFSH受容体低下を来し、妊孕性低下
今回用いた新しい手法では、マウスの卵巣嚢を除去し卵巣表面を露出させたところに、別のマウスから得た子宮を細切して移植している。この方法を行って4週間後に解剖すると、卵巣に付着する形で子宮内膜症病変が形成されていた。また、病変の間質に過剰鉄の沈着を認めた。処置から1、2、4週間後の病変を比較すると、時間が経つにつれ卵巣周囲の線維化が増加した。このような所見は、ヒトの卵巣子宮内膜症病変と同様のものである。
また、同モデルマウスでは、子宮内膜症のある卵巣において卵胞の酸化ストレスマーカー(4-HNE、8-OHdG)のレベルが高く、卵胞発育に必要なFSH受容体の発現低下を認めた。さらに、卵巣子宮内膜症モデルマウスでは、妊娠仔数の有意な減少を認めたという。
以上の結果から、卵巣子宮内膜症の存在が、病変に含まれる過剰鉄を介して、卵胞への酸化ストレスの増加とFSH受容体低下を来し、妊孕性低下につながることが示された。
長期観察により卵巣がんを発症するかどうか検討予定
研究グループは、同モデルを使用して鉄や酸化ストレスの影響を阻害するような薬剤によって病態が改善するかを検討中だ。また、卵巣子宮内膜症モデルマウスを長期観察することにより卵巣がんを発症するかどうかを検討するとしている。
今回の成果は、新たな卵巣子宮内膜症モデルマウスの確立であり、同モデルマウスが今後の子宮内膜症に関連した不妊症の病態解明、治療開発において有用であると考えられる、と研究グループは述べている。
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・名古屋大学 研究成果